白い花が香る家

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「それで、式はどうするつもり?」  はーっと笑い声を吐き出したおばさんは、そう言ってマグカップを持った。 「やるよ。でも、身内だけでやればいいかなって思ってる。まあ、詩に相談しなきゃだけど、職場とか友達交えてって感じではないから……多分詩もそれでいいって言ってくれると思う」 「そっか。まあ、あんたが盛大にやるのなんて好まなそうだけどね」 「俺だって詩が盛大にやりたいって言うならそうしてもいいと思ってるよ」  口を尖らせれば、おばさんは軽く笑ってその場に立ち上がった。なにも言わずに背を向けてリビングを出ていく。  暫くして戻ってきたおばさんは、俺の前に通帳を置いた。 「なんだよ……」 「結婚資金」 「はぁ? いらねぇよ。俺、もう自分で稼いでんだぞ」 「それね、岩崎くん……あんたのお父さんが毎月うちに振り込んでくれたお金なの」 「……え?」 「毎月30万ね。昴ちゃんがうちにきてから大学卒業するまでずっと。月30もかからないからいらないって言ったのよ?  だって元々おばさんも岩崎くんと友達だったからね。でも、面倒みてもらってるからこれくらいはって言われてさ。それと別に高校や大学の入学金なんかは岩崎くんが払ってたんだから」 「そう……だったのか」 「小中学校の給食費や授業料なんかはそこから出させてもらったけどね。あとは洋服代とか? それでも月30なんてとても昴ちゃん1人に使いおおせないからね」 「使わなくたってとっとけよ。俺の面倒みてもらった礼だろ?」  律儀に返そうとしてんなよ。そう思いながら通帳に手を乗せ、おばさんに差し出した。 「バカだね、あんたは」 「な!?」 「私はベビーシッターでも保育士でもないのよ。子供が欲しかったからあんたを自分の子供として育てたんでしょ。どこに子供を育てるのに支給してもらう親がいんのさ。悪いけど、金を貰って育児をするなんて冗談じゃないよ。あんたは私の子でしょ」  その言葉にぎゅっと胸が痛くなる。そう思ってくれているとは感じていたが、実際言葉にされると全然違う。今度はこっちが泣きそうになる。 「いつか昴ちゃんが大人になって、守りたい家族ができたらその子達のために使って欲しいと思ってたんだよ。だから、あんたの私利私欲のために使うんじゃないよ」 「わ、わかってるよ! そんなことは!」 「これから子供だってできるでしょ。結婚資金の残りは養育費にあてな。いくらあんたが稼いでたって子供には金がかかるもんなんだから」 「そう……だけど……」  じっと通帳を見つめていたら、ぎゅっと頭を抱きしめられた。胸に顔を埋める形になり、カチンと硬直する俺の体。
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