白い花が香る家

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 おばさんに抱き締められるなんて子供の時以来か……。あの頃だって妙に気恥ずかしくて、逃げ回ってたっけ。  本当は少し……嬉しかったな。保と同じように俺のことも大事にしてくれて。保にはするけど、俺にはしない。そんなものは1つもなかった。  ただ、30にもなって母親代わりの人に抱き締められるなんて……おじさん見たらびっくりすんじゃん。最悪誤解されかねねぇぞ。  そうは思うものの、俺はおとなしくそっと目を閉じた。おばさんに抱き締めてもらうのはもうこれで最後かもしれない。そう思ったから。 「おめでとう。本当に大きくなったね」  優しく髪を撫でられて、懐かしさが甦る。今でも鮮明に思い出せるんだ。この家に初めて来た日のことも、保とおばさんと3人で過ごした日々も、保と喧嘩して2人揃ってげんこつ食らった日のことも。 「うん……おばさん、今までありがとな。ここまで育ててくれて」 「おばさんの方こそありがとう。私と保の側にいてくれて。……生まれてきてくれてありがとう」  自然と目が開いて、ふっと瞳が揺れた。生まれてきてくれてありがとう……か。詩と同じ事言うんだな。 「俺も……今更だけど生まれてきてよかったって思ってるよ」  そっと顔を上げれば、腕を解放したおばさんが俺の前髪をかきあげて軽く額にキスをした。  子供の頃、保と喧嘩して仲直りした後も、こうやってキスされたっけな……なんで忘れてたんだろ。 「守りたい人ができた証拠だね。大切にしてやんなよ」 「うん……。また詩連れて遊びにくるから。おじさんにも会わせたいし」 「そうね。岩崎くんと俊ちゃんと飲むのもいいよね」 「あんまり外科医に飲ませんなよ」 「付き合い悪いわねぇ。たまには記憶なくすくらい付き合いなさいよ」 「あー……そんな飲み方もしてみてぇな」  いつ緊急の連絡がくるかわからない中で、べろべろに酔っぱらうわけにもいかないから医者になってからそんなに飲むこともなくなった。父さんとおじさん交えてバカ騒ぎなんて考えただけでおかしくて笑えた。  俺はもう一度おばさんに礼を言って家を出た。結局無理に渡された通帳。おばさんの姿が見えなくなってからこっそり開いてみてれば2000万以上入っていた。 「マジかよ……」  あの人、本当にバカだな。くすねたってわかんねぇのに……本当に必要最低限の金以外は全部貯めてたってことじゃねぇか。  ぶわっと目頭が熱くなった。路肩に停めた車。ハンドルに額を預けたら、温かいものが頬を伝った。  リフォームもリノベーションもそれなりに金かかったしな……子供たくさん作るなら、やっぱり金はかかるか。  俺は、鼻をすすって指先で涙を拭った。
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