白い花が香る家

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 詩に出会ってから、近くにずっとあった大切なものに気付かされた気がする。近すぎて見えなかったもの、温かいものも優しいものも全部。  愛情を受け取るのが怖かったのかもな……母さんみたいになくすのが辛いから。  でも今ならわかる。父さんの優しさも、おばさんとおじさんの愛情も。保のお節介ともとれる家族愛も。それから……なにがあっても側にいてくれる詩の純粋な気持ちも。  俺はこの先もずっと、家族を大切にしたい。  指輪が入った箱を見たら、直ぐに詩に会いたくなった。俺は父さんと母さんみたいに、おじさんとおばさんみたいに子供が大きくなってもお互いを好きだと胸を張って言えるような夫婦に、詩となりたい。  病院に戻るつもりだったが、そのまま自宅に直帰した。過去の思い出になってしまった家も、今は俺と詩の家。  これからどんどんいい思い出になっていくだろう。  ドアを開けるといい匂いがした。今日の晩飯はなんだろうな。 「あれ、昴? 早いね! 今日は遅くなるかと思ってたよ!」  パタパタとスリッパの音を響かせて俺を出迎えた詩。笑顔を見れば胸がいっぱいになる。つい、「好き」って言いそうになって、慌てて口をつぐんだ。 「とりあえず帰って来た。……ちょっとこっちきて」  詩の手を引いてリビングへ行く。 「どうしたの? なんかあった?」 「いいから。座って」  詩をソファーに座らせた。きょとんと目を瞬かせて小首を傾げる詩。どんな仕草も可愛くて、ふっと口元が緩んだ。 「なに笑ってるの?」 「んー、詩が可愛いと思って」 「えぇ!? か、かわ、可愛いって……! いつもそんなこと言わないくせに」 「言わないだけで思ってんだよ」  プシューと沸騰する音が聞こえそうなほど顔を真っ赤にさせた詩は、両手で頬を押さえてじっと自分の膝を見ていた。  んとに可愛いな……。付き合ってもうすぐ1年になるのにあの頃と全然変わんねぇ。こっちを向いて「せんせっ!」って笑ってたあの頃も、「昴!」って元気に俺の名を呼ぶ詩もどっちも好きだ。  顔を挟む両手の手首を持つと、詩は遠慮がちに顔を上げた。その隙をついて、唇を奪う。 「ん……」  微かに漏れる詩の声。なにもかもが満たされるかのよう。  唇を離せばまた恥ずかしそうに目を逸らしたりする。いつまでこんな可愛い姿を見せてくれんのかな。 「なぁ、詩」 「……うん?」 「俺、今日詩に会いたくなって帰って来た」  そう言えば、詩は目を丸くさせた。茶色の綺麗な瞳がようやく俺の視線を捕らえた。
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