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ソファーに座る詩の前にしゃがみ込んで、「詩に初めて出会った時、変な女だと思ってた」と言った。急にそんなことを言ったもんだから、ぐっと顔をしかめた詩。
それがまた可愛くて、頬が緩む。
「初めて一緒に勉強してさ、詩、俺がもう勘弁してって言ったのにまだ教えろって食い下がったよな」
「あ、あれは……あんなチャンスもうないと思ったから……医師から直々に教えてもらえるなんて貴重だから」
「うん。行きたくない歓迎会も出席して、酔っぱらってさ……小説も院内に広まって変な噂ばっかりされて」
「踏んだり蹴ったりだったね」
「俺が熱出した時も、抱えて体拭いて、疲れてそのまま寝てたり……」
「昴、重かったんだよ? 濡れた靴も臭かった」
詩は肩をすくめてクスクスと笑う。
「ホームセンターも行ったじゃん。1日朝から夜までずっと一緒にいてさ……楽しかった」
「ん……私も楽しかったよ。だってあの時、昴がポメちゃんに似てるって発見できたし」
「それはお前が勝手に言っただけだろ? 覚えてる? あん時、初めてキスしたの」
「お、覚えてるよ……」
あ、覚えてんだ。でも、本当は違うんだよな。
「本当? 実はあれが2回目だってことは?」
「へ!?」
「詩が怪我した後にさ、俺んちに来たことあったろ?」
「え? あ、うん……」
「俺が詩の膝で寝た日」
「うん……」
「詩、自分もそのままソファーで寝てさ」
「気付いたら昴が起きてパソコンカタカタしてたよ」
「うん。俺、寝てる間に詩にキスした」
詩の両手を握ってふっと笑みを溢すと、詩は「へ!?」と声を上げた後、またみるみる内に顔を紅潮させた。
「俺、あん時にはもう詩のこと好きだった」
「う……そ」
「ホームセンターも嬉しかったよ。詩とデートできて」
「……うん」
詩の瞳がじわっと濡れる。まだ去年のことだ。1年も経ってない。懐かしいと思うには新しい記憶で……あの時のドキドキした痛いくらいうるさい鼓動も、触れるのも戸惑うほど緊張したことも全部頭も体も覚えている。
「今年の誕生日は、大人になってから1番幸せだって思えた日だった」
「……うん」
「ずっと詩と一緒にいたいと思ったよ」
「私も……昴と……」
「うん。来年も、再来年もずっと誕生日には詩がいて、それ以外のなんでもない日でも、詩がいれば特別だって思う」
「……昴」
「肝心な時にいつも詩に全部決めさせてごめんな。これからは俺が、ちゃんと詩のこと守るから。これから先もずっと、俺と一緒にいてくれる?」
「……うん」
ぽろっと小さな粒が、頬をかすって詩の腿に落ちた。パタッと微かな音が広いリビングに響く。
俺は、赤い箱を取り出して詩の右の手のひらに乗せた。
「ちゃんと大切にするから……俺と結婚してくれる?」
左手を取って薬指にキスを落とせば、詩は大粒の涙をボロボロ落として大きく何度も頷いた。
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