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「わ、忘れてないよ!」
詩は慌てて顔の前で両手を振る。その度にダイヤが光って綺麗だった。
「あ、そういえばね。一緒に勉強会やってた同期いたでしょ?」
俺が考えてた勉強会について詩が触れたものだから、少しとくんと鼓動が鳴った。
「いつも4人で一緒にやってたのね。女の子もう1人と、あとは噂の2人」
「うん」
「その中の2人、付き合い始めたんだって」
「へぇ……お前のこと好きだったヤツ?」
「いや、佐古は私のこと好きじゃないって。その子じゃなくてもう1人の。技師さんだから昴も会ったことあるはずだよ。オペにも入るし」
「ふーん」
詩は、その同期の女から片想い中だという相談を前に受けていたようだった。半年以上進展がなかったようだが、俺と詩が同棲を始めたことが噂になり、それを同期で話す内に距離が近付いたと詩が喜んでいた。
未だにあの男が詩に恋愛感情を抱いていると気付いてない点においては思うところはあるが、今日はプロポーズしたばっかりだし空気が乱れるのも嫌だから触れずにおく。
「2人が付き合うきっかけになったなら、私っちの噂もそんなに悪いもんじゃなかったかもね」
「よく言うよ。散々危険な目に遭っておいて」
「昴と付き合う前にね、その子に相談してたんだ。私も昴に片想い中だったから」
「は!? そんなの初めて聞いたぞ」
「はは、だって恥ずかしいもん。言わないよ。付き合い始めた時も真っ先に報告して、おめでとうって自分のことのように喜んでくれてさ、嬉しかったけど……その子はただの同期としてしか見られてないかもって聞いて、なんだか心苦しかったんだよね」
詩は少し目を伏せた。色んなことを乗り越えて俺達の今があるのに、自分だけの幸せを手放しで喜べないなんて詩らしいな、とふっと息を溢した。
「でも、ようやく付き合えたってこの前報告してくれて、私も結婚することにしたんだって言った時、本当に幸せだって思った」
「そっか。よかったな。友達も幸せそうで」
「うん! だから、その子は式に呼びたいかな」
「わかった。式は父さんの都合もあるし、ゆっくり時間をかけて準備するか」
「うん……お父さん、きっと喜んでくれるね」
「そうだな」
「お母さん達も……」
「うん」
俺と詩の母親の写真が並ぶ式が想像できる。夫婦共に母親が亡くなってるなんて、そうある事柄じゃないだろう。それでも俺達は、似たような境遇だったからこそ理解し合い、支え合えた。
やっぱり結婚式は、本当に心から俺達を祝福してくれる人達だけが出席してくれればいい。付き合いや形だけなんて、そんなお飾りの結婚式なんていらない。
「保んちおばさんがまた詩に会いたがってたぞ」
「あ! 挨拶いかないとだね!」
「そうだな」
昼間のおばさんの顔を思い出して、自然に顔が綻んだ。
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