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エピローグ
繋いだ手を少し離して、指を絡めた。ゴツゴツとした指が、俺の関節を軋ませる。この手で毎日オペをする、命と同等の価値を持つ。それは、俺と同じ。
「なぁ、ハル……。本当にこれでよかったのか?」
「ん? なにが?」
「俺と一緒に生きること選んで……」
ハルが婚約者と別れてからもう1年が経つ。あの頃は俺も必死で、あの女にハルを取られまいと、俺だけを見て欲しいと日々思ったものだ。
ただ……婚約破棄に至った時、おじさんもおばさんも悲しそうだったし、両親を不安にさせたくはないからと言って結婚って道を選んだハルの言葉は今でも覚えている。
俺のせいでハルの人生を台無しにしたんじゃないか。こんなにも幸せな中で、時々そんなふうに思うんだ。
「なに言ってんの? マオを選んだのは俺だよ? 俺がマオといたいの。マオ、俺とずっと一緒にいてくれるって言ったじゃん」
「言ったけど……俺、おじさんもおばさんも傷付けて……」
ぐっと喉が詰まるような息苦しさを感じた。それを緩和させるかのように抱き締められた。
ここは、屋外。道行く人々が俺達の抱擁を見てはいけないものを見かのように、好奇の視線を向ける。
「ちょっ……」
「それ以上に俺はマオのこと傷付けたから……。そんなこと言うなよ。そもそも俺がマオに手を出さなきゃ誰も傷付かなかったんだから。でも……俺はマオじゃなきゃだめだから……この先もずっと一緒にいるのはマオがいい」
ハルは、俺の頬に頬擦りをする。ふわっと香るシャンプーの匂い。昨日は俺んちで一緒に風呂に入ったから、俺と同じ匂いがする。
「……ハル」
「マオ、俺のこと好き?」
「……うん」
「俺も、マオのこと好き。だから、そんな悲しいこと言わずにずっと俺の側にいて……」
「それは……プロポーズですか?」
「そうだよ。俺の全てを、マオに捧げるから」
「ハル……」
じんっと胸に染み渡る、温かい言葉。俺達は、普通の男女のように結婚はできないけど、一生を添い遂げることはできる。子供も生めないし、両親を喜ばせることもできない。ただ、こんなにもお互いに求め合える人には二度と出会えないと確信できる。
幼なじみだからこそ、信じ合える強い絆。ハルは幼なじみで友達で、家族でいて恋人だ。こんなにも俺の心の傷を癒し、痛みを消し去ってしまうハルは俺の心のオピオイド。
「ハル、愛してるよ」
この俺が愛を語るなんて。こんな照れ臭い場面も、ハルとなら幸せなんだ。
俺達は間違ってなんかいない。ハルがそう教えてくれた。どんなに好奇の目で見られたってハルさえいてくれたらそれでいい。
「今日はマオの好きなおでんにしようか」
「……真夏なのに?」
「そう、真夏なのに」
空の高い位置に存在する太陽は、俺とハルの関係が始まったあの日を思い出させた。熱く、燃え上がるように照りつける日差しは、まるで、俺達の門出を祝ってくれているかのようだった。
【完】
ーーー
私は小説サイト、エブリスタに投稿したハルマオの最終ページを読み直し、編集したものを再度保存した。
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