エピローグ

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 急いで出勤すると、しっかりパソコンに向かって情報収集している倉本さん。 「ごめんね、倉本さん! ちょっと遅くなっちゃった!」 「お疲れ様です! 初夜勤お願いします! 今、情報収集してるので、後で確認お願いします」  礼儀正しいいい子だ。横のパソコン前に座って私も情報収集を開始する。前回は私が夜勤をしているところを見て回るだけだったが、今日は倉本さんが主体で動くのだ。不安もあるだろうに、一生懸命で可愛く思えた。  業務を開始し、所々手伝いながら仕事をする。日勤では最初こそミスもあったものの、すぐに直して次に繋げる応用力のある倉本さんは、夜勤も慣れれば動けるようになるだろうと思えた。  今日は倉本さんを含め4人の夜勤者がいるため、先に2人に休憩に入ってもらった。倉本さんと、準夜帯の動きについて振り返る。 「ここの自己導尿のこと忘れちゃってたじゃん? 紙に書いてパソコンに貼り付けておくとか、タイマーをかけるとか自分で忘れない方法を考えた方がいいね」 「はい、すみません。岩崎さんが言ってくれなかったら忘れちゃうところでした」  途中まで順調だったのに、1つやり残しを指摘したことでしょんぼりと顔を伏せた倉本さん。これが山本さんや青野さんだとぎゃんぎゃん怒るものだから彼女もびくびくしている。 「気を付けてくれたらいいよ。全体の動きが把握できるようになれば、自然と時間で動けるようになるから」 「はい……ありがとうございます! 岩崎さん、優しくてわかりやすいので本当に嬉しいです」 「そんなことないよ。倉本さんが一生懸命覚える気でいてくれるから、こっちも教えがいがあるよ」  のほほんとした穏やかな空気で話していると「お疲れー」と昴がナースステーションに入ってくる。 「お疲れ様です」  お互いに仕事モードの私達。 「あ、3号の坂本さん、朝一フェンタニルオフでいいから」  椅子に座り、振り返ると昴はそう言った。 「はい。倉本さん、聞いた? ここの坂本さんね。朝一だから6時のバイタルの時に一緒にオフしようか」 「はい!」  私の言葉にメモを取る倉本さん。昴は暫くカタカタと音を立ててカルテ入力をしたあと立ち上がった。 「あ、つーかお前鍋に火かけっぱなしだったぞ」  去り際に足を止めて昴は言った。 「え!? うそ、止めてくれた!?」 「おー。鍋ごと冷蔵庫入れといた」 「熱いまま……?」 「ちゃんとある程度冷めてから入れたよ。その分戻ってくんの遅くなったんだからな」  口を尖らせる昴に面目ないと頭を下げた私。そうはいってもIHだから、長い間火にかけてたら勝手に止まってはくれるんだけど。そろそろ暑くなってきて、食べ物も傷みやすいから、冷蔵庫に入れてくれたのはありがたい。 「ありがとね」 「おー。仮眠してくるわ。なんかあったら連絡して」  そんなやり取りをしてその背中を見送った。ふと視線を感じて目をやれば、倉本さんがぽかんと口を開けて私を見ていた。 「どうかした?」 「え? あ……え? 岩崎さんって……岩崎先生と……えぇ!?」  倉本さんは、やり場のない人差し指を私と既に姿を消した昴の方とを交互に向けながらあんぐりと開いた口を塞げずにいた。
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