エピローグ

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 その様子につい笑ってしまった私。 「ごめん、知らなかったんだっけ? 岩崎先生、私の旦那さんなの」 「えぇ!?」  顎が外れるんじゃないかってくらいに驚いている。入社そうそう覚えることばっかりで噂どころでもなかったんだろう。 「去年結婚したばっかりなんだけどね。だから私、倉本さん教えたら今年度いっぱいで退職なんだよ」 「そうなんですか!? えー……私、もっと岩崎さんと一緒に働きたかったです」 「ありがとう、そう言ってくれて。倉本さんが仕事覚えてくれないと私が退職できないんだからね。頼むよ」  冗談ぽくそう言えば、「が、頑張ります!」と緊張した面持ち。 「びっくりしたけど、岩崎さんと先生ってお似合いですよね」 「え? 本当?」  嬉しいことを言ってくれる。つい頬を緩めれば「意外と美男美女の夫婦って多いんですね」なんて言う倉本さん。  び、美男美女なんて初めて言われたぞ! 昴のイケメンは誰もが認めるものだとしても、私は美女ではない……悲しい。 「私、母性の実習で担当した新生児の褥婦さんがすっごい美人さんだったんですよ」 「へぇ?」 「それで、それだけでも驚きなのに旦那さんはめちゃくちゃイケメンで」 「ほうほう」  美人とイケメンという言葉につい反応する私。昴やりっちゃんがいるくらいだから世の中にイケメンもいっぱいいるんだろうな。 「当然赤ちゃんもびっくりするくらい整ってて、CM出れるレベルでした!」 「新生児がCM出てるのなんか見たことないけどね」  興奮している倉本さんに、つい冷静に対応してしまった私。 「きっと先生と岩崎さんの子供も可愛いんでしょうね!」 「先生に似ればね。……今から楽しみだけど」  まだ少し先になりそうな妊娠だけれど、昴と子供の話をするのは楽しい。小説に夢中になってつい鍋の火を消し忘れちゃうような私だけど、そんな私でも昴はずっと好きでいてくれるかな。 ーープルルルルル  私と倉本さんの話を遮るかのように高い音が響き、ナースコールを知らせる部屋番号が点滅する。直ぐにPHSに連動して、鳴り響く。  私は、胸ポケットに入っているPHSを取り出し「伺いますね」と声をかけてそれを切った。 「私、行ってきます!」  張り切って立ち上がる倉本さん。日勤はほとんど独り立ちしているため「多分トイレだと思う。お願いね」と任せることにした。  手に持ったPHSに目を向けると、一緒に視界に入るシンプルな指輪。結婚した後、昴と一緒に選びにいった結婚指輪だ。  これを見る度幸せな気持ちになる。 「相方は?」  上から低い声が聞こえて私は顔を上げた。先程去っていったばかりの昴だ。 「え? あ、ナースコール」 「そ」 「昴は?」 「忘れ物」  忘れ物? そう思ってるところに、軽く触れるだけのキスをされた。 「ちょっ! ここ、職場!」  私は慌てて中腰になって辺りを見回す。誰かに見られてたらどうすんのさ!  キョロキョロする私に肩を揺らして笑う昴は「家出る時、してかなかったろ。詩、頑張れないかと思って」なんて言いながらいたずらに笑った。  むくれた私に優しく微笑む昴。彼は素敵なお医者さん。患者の命を優先させ、多くの病気を治すスペシャリスト。  だけど時々こんなふうに無邪気で子供っぽい。私だけが知っている、可愛い旦那様。そんな彼の左手の薬指にも私と同じ指輪がはまっている。オペ以外は絶対外さないその存在が、たくさんの愛情を示しているかのようだった。 「鍋の不始末、明日の夜お仕置きな」  耳元でこそっと言う意地悪な旦那様は、どこか嬉しそうで。仕事モードを引きずった昴が夜の診察を求めてくるんじゃないかと私は思わず身構えた。 【完】 →あとがき
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