旦那様はお医者様

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 じっと視線を感じてそちらを見ると、ちょこんと椅子に座った守屋家のおばあちゃんと目が合った。  最近は膝の調子があまりよくなく、長距離は歩けなくなってしまったおばあちゃん。 「おばあちゃんも来てくれてありがとね」 「綺麗な子だね。お嫁さんだね」  にこにこ笑ってそう言う。  認知症が少しずつ進行してきている。私も毎日おばあちゃんに会うわけじゃないから忘れちゃうみたい。 「ありがとう。ねぇ、おばあちゃん詩だよ」 「あら、詩ちゃんだったかね。すごく綺麗だからわからなかったよ」  ほっほっと笑いながら手を伸ばすから、その手をそっと握った。 「私ね、お嫁にいくの」 「そうかね、そうかね。りっちゃんと仲良くね」 「おばあちゃん、りっちゃんと結婚するわけじゃないんだよ」 「あら、そうかね。じゃあ、あっくんとだね」 「あっくんはまどかさんと結婚したでしょ」 「ああ、そうだね。まどかちゃんは元気かね」 「元気だよ」  いつもの会話に私と守屋家は笑いに包まれるが、昴はきゅっと口を結んでなにかを堪え忍んでいる。  りっちゃんとあっくんが私の結婚相手として名前が上がったのが気に入らないんだろう。でも、それを口に出さなくなっただけ進歩したのかな……。 「おばあちゃん、私の旦那さんだよ。岩崎昴さんっていうの」  そんな昴の手を引いて、おばあちゃんの前に昴を立たせる。これで昴を紹介するのは3回目になるんだけど……昴だって医者だし認知症への理解はある。 「こんにちは。岩崎昴です。詩さんと結婚させていただきます」  職業柄か、仕事モードに切り替えたのか、普段患者さんに接するような優しい声色とふんわりとした笑顔を見せる昴。  その様子に誰もが驚いた様子だった。私はふふっと笑ってしまい、仕事中の昴はいつもこうなんだよって教えてあげたかった。
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