旦那様はお医者様

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「まあまあ、いい旦那さんだね」 「そうでしょ。お医者さんなんだよ」 「そうかね。じゃあ安泰だね」  そんなことを本人の目の前で言うものだから、昴まで笑ってしまっている。安泰なのは事実だし、皆が笑いに包まれたらそれでいい。 「詩、そろそろ準備しなきゃじゃないの?」  かなにそう声をかけられた。ドレスを着たのはいいけれど、すっかり皆と話し込んでしまった。これからすぐ披露宴が始まる。  私と昴が喧嘩した仲を取り持ってくれ、昴のカウンセリングまでしてくれた古河先生も当然招いた。  私達が結婚できるのはこの人のおかげでもあるんだから。 「うん。もう行くね」 「先生も来てくれてありがとうございます」 「うん。凄く綺麗だね。岩崎くんとお幸せに」 「ありがとうございます。次は先生とかなの番ですね」 「ちょっ!」  私がこそっと言えば、2人揃って真っ赤な顔をしている。そんな反応が可愛くて、武内先生が昴をからかいたがる気持ちが少しだけわかったような気がした。  プランナーさんに呼ばれて私達は準備に入る。最初からほとんど身内ばかりだからか、皆もあまり緊張している様子はなかった。  披露宴は順調に始まる。  曲と共に昴と歩く。人数が人数なだけに小ぢんまりしているけれど、温かみがあって鼓動がとくんと揺れた。  自分がこんなふうに披露宴を行える日がくるなんて想像できなかった。ただ、昴と腕を組んで歩くこの瞬間がとてつもなく幸せだった。  予定通り、新郎新婦の紹介や友人スピーチも行う。スピーチはもちろん千聖にお願いした。話しながら鼻をすするから、私まで目が潤む。  両親への手紙は、お母さんのことも含め、おじさんとおばさんに宛てて書いた。 「お母さん、見てますか。お母さんとお別れしてからもう9年が経とうとしています。高校生だった私も大人になり、こうして昴さんと結婚することができました。お母さんは、亡くなる前から、たくさん愛情を注いでくれる人と結婚してねと言っていましたね。  高校生の私には、お母さんにしてあげられることはあまりなかったけれど、昴さんはきっとお母さんが望んでいるような愛情深い人です。高校生になるまで育ててくれてありがとう。これで恩返しになったら嬉しいです」  手紙を読んでいる途中でうるうると目が潤む。視界が滲んで文字もぼやけて見えた。
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