旦那様はお医者様

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 私と昴に課せられたことは、4分以内に呼吸を再開させ心臓と脳に血液を送り続けること。  さぁ、よーいスタート!  私は医療バッグに駆け寄る。見たことのないバッグの中身、配置に戸惑うが冷静に必要物品を見極める。  キシロカインをシリンジに詰めて、メスとキシロカインゼリー、カニューレを持っていった。  胸骨圧迫している昴にシリンジを渡し、その間に消毒をする。昴は頚部に数ヶ所針を刺して麻酔をかける。それから頚部の付け根に指を沿わせ、凹みを探す。皮膚を切開し、片手で皮膚を開くと気管を捕らえた昴は躊躇なくそこを切った。  素早くカニューレを装着する。しかし、空気が入る音はしない。心停止が続いているのだ。  私は、直ぐに胸骨圧迫を開始する。 「千聖! アンビュー持ってきて!」  1つしかないアンビューバック。他にも呼吸が止まってる人がいるって武内先生が言ってた。だけど、これで呼吸が戻ればまた他の人に使える。  千聖は直ぐにやってきて、アンビューを気切部分に取り付け、空気が漏れないか確認をした。  30回の胸骨圧迫の後、2回の酸素導入。それを3回繰り返したところで自発呼吸が見られた。  私も昴も千聖もほっと安堵の息をついた。 「助かりましたね……」 「応急処置に過ぎねぇがな。止血する。ガーゼとかあんのか?」 「数枚なら……」 「しょうがねぇな。この状況じゃ」  ないよりマシ。あるものでなんとかするしかないと止血を開始し、気切の固定をする。 「すごいね、昴……気管がどこにあるかなんて見えないのに……」  本来なら皮膚を大きく開いて気管を剥き出しにし、固定をして行うオペだ。こんな1分にも満たない時間でこなすなんてやっぱり昴は名医だと思う。
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