旦那様はお医者様

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「経験と勘だ。何度もやってきたことだからな。そりゃ、もう1人外科医がいてくれりゃそんなにいいことはないけど……あれじゃぁな」  昴は後ろを振り返る。武内先生は、意識が戻ったらしき人の処置にあたっているし、お義父さんは別の人の止血をしている。俊輔さんは骨折した人の足を診ていた。 「病院みたい……」 「な」  昴と顔を見合せると、一気に肩の力が抜けてふっと笑う。  その内に救急車のサイレンが近付き、皆の緊張も少し薄れたような気がした。  純白のドレスとタキシードはところどころ赤く染まり、私達の手も真っ赤だ。 「感染怖いしとりあえず直ぐに手洗いたい」 「俺も」  ふらっと立ち上がったところに救急隊員が駆け寄ってくる。 「あ、あの、これは一体……」 「俺、医者。アイツらも。できる限りの処置はした。窒息で呼吸停止、心停止してる。こことあそこ、重傷者だからそっちから運んで。今気切したから直ぐに酸素開始。病院に輸血準備するように言っとけ」 「は、はい! では、こちらから直ぐに!」  慌てた様子で女性を担架に乗せる救急隊員。大規模な事故とあってパトカーもやってきた。  私達は近くの水道でとりあえず手を洗わせてもらい、警察には状況説明と施した処置などを伝えた。  後は事故を起こした当事者達にと私達は解放されたが、その頃には既に事故発生から1時間が経とうとしていた。  皆一命を取り留めたこと、近くに総合病院があったことから医師がついていくことはなかった。  いや、というより断った。 「ふざけんな。式の途中だぞ!? 処置は医者が見りゃなにしたかくらいわかる。文句があったら隷都病院まで来いって言っとけ」  なんて昴が噛みついたから。
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