旦那様はお医者様

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 ぞろぞろと会場に戻る私達。プランナーさん達は涙を流して頭を下げるし、事故にあった来賓の方々が来られていた式の新郎新婦は更に嗚咽して立ち上がれないほど。  私達、医療従事者はこんなふうに急患や急変があるのは日常茶飯事で、今はとても冷静なのだけれど、周りの雰囲気はただ事じゃない。  守屋家の皆もわたわたと動揺を隠せないし、もう終わったことだと式に戻ろうとしている私達がまるで変人の如く見られる。 「本当にありがとうございました。式を台無しにしてしまって申し訳ありません」  新婦さんであろう人がわんわん泣きながら言うものだから、職業柄寄り添って「大丈夫ですよ。皆さん、一命を取り留めてよかったですね。搬送されたご家族さんも病院に向かわれたそうなので、適切な処置が施され安定するのを待ちましょう」なんて声をかけたが正直もう解放していただきたい。  そりゃね、大きな事故にあって、私も事故でお母さんを亡くした身だから心底驚いて、動揺するのはわかるのよ。  でもさ、あなた達は式が終わったかもしれないけど、私達途中なわけよ。  とはもちろん言えない。 「できる限りのことはしましたから、後は病院にお任せするしかありません。ご親族やご友人もいらっしゃるかと思います。皆さんも精神的にダメージを負っていてもおかしくない。しっかり体を休めることと、搬送された方々に付き添ってあげてください」  お義父さんがそう言ってくれたことで、私達は解放される。さすが、敏腕医師! 引き際を心得ている!  私は感心しながら、昴と共に歩く。ほとんど裾を引きずって泥だらけだし、血塗れだしこれじゃ悲劇の花嫁だよ。  あーあ。せっかくの結婚式。両親への手紙で涙を流してたのにな。 「こんな時まで仕事させられるなんて、天職だねぇ」  武内先生は、頭の後ろで腕を組んで昴にそう言った。 「あぁ!? っざけんな! こんな日くらい祝福されるべきだろ!」  頗る不機嫌な昴。
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