旦那様はお医者様

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「新婚旅行で行こうよ。3日くらいお休みくれないかな」 「人生一度の新婚旅行だっつって申請してみるしかねぇな」  ふむ……と考え込む昴。主にオペの日程を組んでいる滝先生に掛け合うつもりなんだろう。  昴と武内先生がグアム産だという理沙子さん達のように、私も素敵な旅行を昴と共にしてみたいと思った。  私と昴は普通のカップルのように、たくさんデートを重ねることはできなかったから、友達の披露宴で見るような2人の動画なんてものは作成できなかった。  けれど、千聖が持ち込んでくれた私の動画と、お義父さんが用意してくれた動画がある。それから理沙子さんまで。  そこには先ほどお義父さんと俊輔さんが語ったちっちゃな昴が映っていた。  昴の幼少期は今の家の写真立てに収めてあった写真で見たことがあったが、動画になるとまた違う。 「ちょっと昴! 可愛すぎるんだが!」  私は興奮気味に昴の腕をバシバシ叩いた。  周りからも「可愛いー」と声が漏れている。まるで女の子のようにクリクリした瞳。元々髪は少し茶色いようで、このままアイドルにでもなれそうな子供だった。 「昴ー。将来の夢はなんですか?」  そう尋ねるのは女性の声。私も昴もそっと息を飲んだ。きっとお母さんだって思ったから。 「お医者さん。おれ、お医者さんになるよー」  そう言って分厚い医学書を両手に抱えているチビ昴。  もうこの頃にはそんなこと言ってたんだ……そう思ってちらっと隣を見れば、目を潤ませている今の昴。おそらくこの動画を見るのは初めてだったんだろう。  亡くなった母親の映像を見ればまた辛くなると思って見せなかったのか、お義父さんが辛くなって見せられなかったのか……。  どちらにせよ、昴にとってはたくさんの思い出が一気に甦ったようで、大きく上下する喉を見つめてからそっとその大きな手を握った。
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