旦那様はお医者様

27/27
前へ
/466ページ
次へ
「あんたと岩崎先生、堂々と載っちゃってるんだって! 後ろ姿だけど!」 「えぇ!?」  ちょっ、そういうのって掲載する前に声かかるんじゃないの? って、うちら主役なのに式が終わったらどんどん昴に引きずられて誰よりも先に帰宅したんだった。  おかげで守屋家の皆にもお礼が言えなかった。  千聖の言葉に驚いた私は、必ず新聞があるであろう守屋家に直行した。 「おばさーん!」  ドアを開けて大声で叫ぶ。もうおじさんもりっちゃんも出勤した後だろう。中にいるのはおばさんとおばあちゃんだけだ。  中からバタバタと出てきたおばさん。 「あ、詩!? もしかして新聞見にきたの?」  おばさんにも目的は見抜かれていた。そりゃそうだろう。私の身近で新聞が見られるところといったらここかコンビニくらいしかないんだから。 「今、千聖に新聞のこと聞いてさ!」 「うんうん、大きく載っちゃったね」  苦笑しているおばさんはすぐに新聞を持ってきてくれた。そこには壮絶な事故の様子と、ウェディングドレスとタキシードに身を包んだ私達の後ろ姿。  顔が写らなかっただけマシだけどこれじゃ本当に悲劇のヒロインだ。  記事にはしっかり医師と看護師の結婚式ということ、人命救助にあたり全員が救出されたことがかかれていた。  更に、病院に搬送後も死者は出なかったようだ。それは良かったけど……こりゃ次の出勤はまた大騒ぎだなと顔をしかめた。  その後、私達に警察署から表彰の話がきた。けれど私達は医療従事者だ。当然のことをしたまでですとお義父さんや武内先生達も含めて全員でお断りさせていただいた。  それがまた医療者として素晴らしい心意気だなんて記事になってしまったものだから二次災害である。  あの写真の掲載については、残っていた武内先生と和泉さんが「それ俺達です。是非写真使ってください」なんて勝手に許可したそうだ。  まったく、いつもの如くろくなことをしない夫婦だ。もう絶対ハルマオの映像もらうからな。  私はそう鼻息を荒くした。  一面記事をもらってきた私は、私の隣に並ぶタキシード姿を指でなぞる。  あの時の表情がふと甦った。真剣な眼差し、咄嗟の判断力と適切な措置。  いつも院内で見る白衣姿の先生。けれどこの時ばかりはタキシードのまま、白が赤くなるのも形振り構わず処置にあたった。  私の素敵な旦那様は、人々の命を守るカッコいいお医者様。  会える時間が他の夫婦よりも少なくても、私にとって自慢の旦那様だ。  この先もずっと、昴が人の命と真剣に向き合ってくれる素敵な人であり続けますように。   私はふっと微笑んで、静まりかえったリビングで丁寧に一面記事をファイルに綴じた。 【完】
/466ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12339人が本棚に入れています
本棚に追加