コミカライズ記念

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コミカライズ記念

 朝一で出勤した詩は、白衣を靡かせて歩く後ろ姿を見つけて一直線に走り出した。  ドドドドドドッと効果音抜群で跳躍力を活かして大きくジャンプ。そのまま昴の背中にダイブした。 「ぬをっ!?」  重みと衝撃を感じて、昴はイラッと一気に怒りの沸点に達する。人でも殺しそうな勢いで振り向くと、そこには愛妻の姿。 「詩。なーにやってんだよ」  詩の顔を見た途端、ふはっと笑顔をこぼす。背中にぶらーんとぶら下がる詩は子供のようで、普段仕事中にこんなふうに絡んでくることのない詩のこと。とんでもなくテンションが上がっていることなど想像がつく。 「昴! 大変だよ!」 「なんだよ、急患……ってわけではなさそうだな」  大変と言う割には目をキラキラと輝かせている。昴は、詩の脇腹を支えて廊下に体を降ろした。夜勤明けの詩と、朝イチの回診のため早く出勤した昴。夫婦でありながらも本日会うのは初めてである。 「あのね! 恋愛腐適合者がコミカライズされたんだよ!」 「ああ……。保から聞いた」 「んな!? な、なんで武内先生が……。私だってさっき聞いたのに……」  情報通の保が自分よりも早く情報を握っていることにゾッとする詩は、これでもかってほど顔を歪めた。 「なんつー顔してんだよ。つーか、そんなこと言うために走ってきたのか」 「そんなこと!? 重大だよ! だって、私達が漫画になるんだよ!」 「そうだな」 「恋愛腐適合者だよ!」 「ああ」 「これが何を意味するかわかる!?」 「わかんね」 「実質ハルとマオのBLがコミカライズされるのと同じことなのよ」  詩は、ジュルッと流れ落ちそうになるヨダレを啜り、手の甲で握った。脳内は、マオを押し倒すハルの構図でいっぱいである。 「お前……あれ、完結したんじゃねぇのかよ」 「続編書いてます」 「は!?」 「ハルとマオが一緒に暮し始めたんですよ」  瞳にハートマークが映る詩は、ぽわわんと夢見心地で天を仰いだ。昴はぐっと顔をしかめて「結婚したらやめるんじゃなかったのかよ……」と低い声で呟いた。 「あっれー!? 主役のお2人さん、おはよう」  キラキラの王子様スマイルを振りまいて保登場。早朝だというのに疲れを一切出さない王子振りは健在である。 「あ! 武内先生おはようございます!」 「おはよう。詩ちゃん、コミカライズおめでとう」 「ありがとうございます! これからも精進いたします!」 「おい、お前の作品じゃねぇだろ」  保と詩のやり取りに、顔を引きつらせた昴がすかさず横槍を入れた。 「なにをっ!? 私、主人公だからね! 主人公であり、ハル×マオの作者だよ!」  心外だとでも言うように、詩は眉間に皺を寄せて吠えた。 「詩ちゃんの作品も漫画になるの?」 「もちろん、そういったシーンが使われるのですよ。ハルとマオが……」  言いながらチラリと保と昴を交互に見つめた。リアルな2人に、詩は鼻の奥がツンと痛むのを感じた。 「おっと……マズイマズイ、危うく鼻血がでそうだった……」 「さっきからヨダレは出てるけどな」  詩と昴の掛け合いに、楽しそうにははっと笑みをこぼす保。しかめっ面の昴を見てにたぁと黒い笑みに変えた彼は「じゃあ、詩ちゃんにとっておきのプレゼントをあげよう」と声を弾ませた。  え……? と詩と昴が一瞬動きを止めた瞬間を狙って保が昴の後頭部を引き寄せた。優しく頬に手を添えて、顎の角度を調整するとそのまま唇を重ねた。  白衣姿のドクター2人は、窓から差し込んだ朝日に照らされ、神々しく輝く。 「うっきゃー!!!!!」  目をギンギンに見開いた詩は、食い入るように密着した2人を見つめた。  唇を奪われたまま、沸々と怒りが湧く昴。 「っざっけんなー!! てめっ、またっ!」  ガバッと体を離した昴が、唇を白衣の袖で拭いながら声を荒らげた。 「まあまあ、岩崎先生。病院はお静かに」  わざとらしく優しげな口調で言う保。それが余計に昴の怒りを仰ぐ。 「詩ちゃんのお祝いはこうでなくちゃね」 「こうでなくちゃ!」  両手を大きくバンザイして、飛び跳ねて喜ぶ詩。 「恋愛腐適合者コミカライズはマンガBANG!様にて配信中だよ!」  保は片目を瞑ってキラキラスマイルを投げかける。 「わ、私も! ハルとマオにも注目して見て下さいね! 漫画家さんは二河もにか先生です!」 「レーベルはAmazia様!」 『見てねー♡』  寄り添ってニッコリ笑顔の保と詩に、火を吹いて暴れる昴。 「聞けよ、話を! お前らゴラァッ!!」 「武内先生、今度チュッチュする時は事前に言ってくださいね。撮影しますんで」 「ラジャッ」  小さく敬礼する2人は顔を見合わせてほくそ笑んだ。 【完】 コミカライズよろしくお願いします! 本編も楽しんでもらえて嬉しいです٩(๑•ㅂ•)۶
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