ドニーとソニア

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ドニーとソニア

私はナイア。 そう、ナイアだ。 私には“夕陽”に思い出がある。 忘れたいけど、忘れたくない思い出が。 私がロサンゼルス市警察のSWAT隊員として表彰された日の事だ。 酒に酔い、ドラッグを使用した末、口論になった母親を人質に立て篭り事件を起こした男子大学生。 犯人の妹からの通報を受け、私を含むSWATが出撃。 正午過ぎ、裏口に待機していたチームとともに、私たちは玄関から突入した。 チェーンカッター、フラッシュバン、クリアリング。 素人相手の戦闘だ。あっという間に片付いた。 キッチンで私の発砲した弾丸は、犯人が握る銃を弾いた。 恐れ慄き、うつ伏せになった所を逮捕。 隊員も人質も無傷。 その後の捜査で、犯人は“アルカディア”などと名乗るダークウェブの運営者の一人だった。 このアルカディアはハッキングだけでなく、麻薬や武器の密売、誘拐、人身売買、など重大な犯罪を起こしている集団。 私は偶然にもアルカディアに壊滅的ダメージを与えたようだ。 表彰式後の夕方、家族と市警のみんなが私の実家に集まってパーティーを開いてくれた。 もちろん隊員たちも一緒に。 “お手柄!SWATの女性隊員、一発の弾丸で犯罪組織を一網打尽” ニュース番組のテロップが誇らしかった。 皆が夢中になってテレビを見て騒いでいる時、お代わりのビールを取りに行った私は父ドニーと母ソニアが庭でお酒を飲んでいるのを発見した。 ロッキングチェアに座っている二人に近づくと昔話に興じる声。 私に気がついた母に促されロッキングチェアに腰掛けた。 “SWAT”“おめでとう!”とチョコレートでデコレーションされたケーキをつまみながら。 「一つ昔話をしてやろう」 「ほーら、また始まった」 ほろ酔いの父と茶化す母。父はお酒を飲むといつも海兵隊にいた時の話をしてくれた。 「負傷した仲間を担いで味方の基地まで何十キロも走った昔話?」 続いて茶化す私に首を振ると父はゆっくり話始めた。 この二人がまだボーイフレンドとガールフレンドだった頃の話。 貧しい暮らしを強いられながら一生懸命働いてお金を貯め、結婚してこの家を買ったと。 「差別される事もあった」 黒人だからと拒絶されても屈しなかった両親。 一日中、身を粉にして働いた両親。 お陰で私は大学まで卒業させてもらった。 初めて聞く二人の馴れ初め。 夕陽を全身に浴びる父の目から涙がポロリと落ちる。 勤勉で厳格、あまり感情を人前で見せない人のその姿に私も涙を堪えきれなかった。 「おめでとうナイア。お前は我が家の誇り、自慢の娘だ」 ギュッと抱きついた私の頭を撫でる大きな手。その暖かさは今でも記憶に残っている。 庭に差し込む夕陽はまさにサンファイヤーイエロー。 今でも忘れない色。 そんな二人の訃報を聞いたのも夕方だった。 持病の喘息が悪化し急逝した父とそれを苦に自殺した母。 父は薬をもらって欠かさず飲んでいたはずなのに。 その時せめて母が私に電話してくれたら。 あまりに突然の事でその日は一日中気が動転していた。 なぜ?どうして?
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