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「気持ちを抑えられなくなってしまうんですか、あの柚瑠木さんが……?」
香津美さんは楽しそうにクスクスと笑っていますが、私にはそんな柚瑠木さんを想像することも出来なくて。
それに彼女の言う、柚瑠木さんの抑えきれない気持ちっていったいどういう事なのでしょうか?
「そうね、柚瑠木さんもきっとまだ戸惑ってるんだと思うわ。月菜さんは自分ばかり理性的でいようとする彼の殻を壊してあげればいいのよ。」
やっぱり香津美さんは強くて大胆な発想の持ち主です。私だったらきっと、そんな事は出来ないとうじうじ悩んでしまうのに……
「柚瑠木さんにそんな事をして、本当にいいのでしょうか?もし彼を傷付けてしまったら、私は……」
「優しい人は嫌いじゃないわ、でも私は月菜さんに自分ばかりを犠牲にする女性にはなって欲しくないの。それにあなた達は夫婦なんだもの、分かり合うのに少し傷つけ合ってしまうこともあるはずよ?」
私はずっと柚瑠木さんに嫌われないようにとばかり考えていました。彼の事を知りたい、受け入れたいと一方的に望んでいたけれど……私自身はきちんと柚瑠木さんと向き合っていなかったのかもしれません。
夫婦なのにこのまま理解し合えないままではいたくない、もっと……
「香津美さん、ありがとうございます。本当は挫けそうでしたが、話を聞いてまだまだ頑張れそうになりました。」
「それなら良かったわ。そろそろ柚瑠木さんも帰ってくるみたいだし、私も自分の部屋に帰るわね。」
そう言って香津美さんが見せてくれたスマホの画面には
『柚瑠木が心配して焦っている、そろそろ月菜さんの所に帰すから』
と、聖壱さんからのメッセージが。
出て行ったのは柚瑠木さんの方なのに、心配して焦るなんて……そんなの狡いです。
私は香津美さんを玄関まで見送って、帰って来た柚瑠木さんと一緒に部屋の中へと入りました。
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