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感情に任せて私が言い返すと、柚瑠木さんは顔を上げ何か言いたげに唇を動かしました。だけど彼は結局私の問いに何も答えること無く、きつく唇を噛み締めているだけで……
私は柚瑠木さんにもっと心を開いて欲しかった、辛い事も何もかも私に吐き出してくれても良かった。それなのに、柚瑠木さんにとっての【特別】とはそういう存在ではないのですか?
「柚瑠木さん、私は……」
貴方に秘密がある事を責めている訳ではないんです。でも……その事で苦しむ柚瑠木さんを、ただ見ているだけの妻ではいられないんです。
「……すみません、月菜さん。今夜は一人になりたいので、貴女は自分の部屋のベッドで休んでください。」
それだけを私に伝えると柚瑠木さんは箸を置いて席を立つと、私と目も合わせることも無く寝室へと歩きだしました。静かなリビングにパタンと扉の閉じる音だけが響いて。
柚瑠木さんを癒すどころか、彼の痛みすら分かち合わせてもらえない。それは私の望んだ関係とは違うもので……
「……柚瑠木さんの特別は、私の思っていたのとは同じじゃないのですね。」
私と柚瑠木さんは別々の人間、もちろん育った環境や価値観も違います。だけど、私を【特別】だと言ってくれた時の彼は、自分と同じ気持ちなのだと思っていたのに。
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