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「いや、杏凛にはそんな様子は見られない。だが、そういう症状のある人もいるのかもしれない……二階堂 柚瑠木のように、あんな事が原因ならばなおさら。」
匡介さんの言葉に思わず顔を上げ、彼の事をジッと見上げました。匡介さんは柚瑠木さんの悪夢の原因を知っているかのような口ぶりだったのです。私は思わず……
「匡介さんは知っているのですか……?柚瑠木さんに何があったのかを。」
私がそう言うと匡介さんは「しまった」という顔をしました。ですが、彼のその態度でそれが間違いないことを確信しました。
「……失言だった、今のは聞かなかったことにして欲しい。二階堂 柚瑠木が妻の君に話していないとは思っていなかった。俺も詳しくは覚えていないし、忘れてくれ。」
そう匡介さんには言われましたが、私はどうしても知りたくて……
「どうか、教えてもらえないでしょうか?少しでもいい、匡介さんの覚えている事だけでも……」
必死でお願いしました。匡介さんが困った顔をしているのに、何度も何度も「お願いします」と繰り返して。しばらく考えるような仕草をしていた恭介さんは、杏凛さんをベッドに残して私を病室から連れ出しました。
誰もいない静かな白い廊下で、匡介さんは何か覚悟を決めたように……
「……君がそこまで知りたいなら、俺の知っている事を教えてもいい。その代わり、君に一つだけ協力して欲しいことがある。どうだろう、交換条件といかないか――――?」
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