契約結婚を終える時には…

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 真っ直ぐ真澄(ますみ)さんを見つめてそう言った柚瑠木(ゆるぎ)さんに、彼女は小さく息を吐いてその顔を上げてみせました。覚悟を決め表情で、真澄(ますみ)さんもしっかりと柚瑠木さんを見つめ返します。 「……最初から、仕組まれていた事だったのよ。私が貴方の家庭教師になったのも、あの時の事故もすべて。」 「……そうでしょうね。近くにいくらでも評判のいい家庭教師がいるのに、わざわざ遠縁でしかも大学を出たばかりの貴女を僕につけたのか不思議でしたから。」  私はちゃんと柚瑠木さんの話を聞いていたつもりだったのに、なにも気付きませんでした。確かに柚瑠木さんは二階堂財閥の御曹司なのです、家庭教師の方だって好きに選べたでしょう。  それでも真澄さんが選ばれた、それが…… 「父が随分熱心に話を薦めてきてね、二階堂財閥の御曹司の家庭教師を断るという選択肢はなかったの。それもだいぶ裏工作をしたうえでの話だったようだけれどね。」  真澄さんの言う事ももっともです。いくら遠縁とはいえ、そう望まれたのなら断ることは難しかったでしょう。けれどそれも全部、柚瑠木さんを事故に見せかけるため……そう思うと身体が勝手に震えてしまって。   「正直なところ悩んだのよ、私が就きたいと思っていた仕事とは少し違っていたから。それでも見せてもらった柚瑠木君の写真、その貴方の顔があまりにも無表情だったから……私が色んな感情を教えてあげたくなったの。」
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