契約結婚を終える時には…

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 純粋に発表会を真澄(ますみ)さんに見に来て欲しかった柚瑠木(ゆるぎ)さんと、彼の成長を見たかったはずの真澄さんの気持ちを利用するなんてあまりにも酷すぎます。  自分の娘を使ってまで、己の立場だけを守り柚瑠木さんを傷付けようだなんてあんまりだと思うんです。  きっと真澄さんは自分自身も深く傷つきながら、柚瑠木さんに会いに行こうとしたのでしょう。そして彼女のお父さんの企みから柚瑠木さんを守って…… 「……気付いたら、見たことも無い病院のベッドの上で。すぐに見舞いに来てくれた柚瑠木君の両親が、貴方が無事だったことを教えてくれた。すぐに柚瑠木君を病院に連れてくるとも、だけど……」  確か、柚瑠木さんは事故の後に真澄さんとは会えなくなったんですよね。でもその理由も、事件の裏を聞いたらなんとなく分かります。だって、真澄さんも柚瑠木さんの事をとても大切に思っているはずだから。 「真澄さんは僕がまた自分と関われば、同じように危険に晒す可能性がある。そう考えたから僕や貴女の父親の前から姿を消したんでしょう?僕の両親に頼めば、難しい事じゃないはずだから」 「そう、貴方の御両親にお願いしたの。確かに柚瑠木君を危険な目にあわせたことも怖かった。でもそれ以上に貴方に合わせる顔が無かった……約束を破って、そのうえ命の危険に晒してしまった自分が許せなくて」  顔をそっと両手で覆ってしまう真澄さん、彼女はずっとこの事件に縛られて生きて来たに違いありません。再会した時は明るく振舞っていましたが、きっと彼女も柚瑠木さんと同じように戸惑いや苦しみを抱えたままだったのでしょう。
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