契約結婚の先へと進んで…

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 リビングのドアを開けると、本を読んでいた柚瑠木(ゆるぎ)さんがゆっくりと顔を上げて私を見て微笑んでくれました。かなり遅くなってしまったのに、彼は気にした様子も見せずソファーから立ち上がりこちらへと歩いてきます。 「僕もお風呂を済ませてきますね、そこに暖かい紅茶を用意しておいたので飲んで待っていてください」 「……は、はい」  緊張で少し上擦った声で返事をすると、柚瑠木さんはそんな私を見て楽しそうに口角を上げて…… 「……リラックスしすぎて眠ったりしては許しませんからね?」  私の耳元でそんな風に色っぽく囁くんです、私は今の状況だけでいっぱいいっぱいだと言うのに。顔を真っ赤にしてブンブンと頷くことしか出来ないまま、バスルームへと向かう柚瑠木さんの後姿を見つめます。  結婚したばかりの頃は知らなかった少し意地悪な柚瑠木さん、彼の分かりにくい優しさも……少し幼さのある笑みも全てが愛おしいんです。  私は紅茶のカップを手に取り、ソファーに座ります。ほんのりとアップルの香りが……アップルの香りの紅茶の葉は、うちのキッチンにあったでしょうか?  ですが深く考えるのは止めて、柚瑠木さんの読んでいた本に手を伸ばします。彼はどんな難しい本を読んでいるのでしょう?
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