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「ゆ、柚瑠木さん、降ろしてくださいっ!」
まさか私を抱き上げてしまうなんて。予想もしなかった柚瑠木さんの行動と、一気に縮んだ彼との距離に戸惑います。
焦って柚瑠木さんにそうお願いしても、彼は全く降ろす気はないようで……
「何故ですか、いまさら嫌とか言われても聞いてあげれませんよ?」
そう言って少しだけ拗ねたような顔をする彼に、またキュンとさせられてしまったり。もう色んな感情がいっぺんに押し寄せてきて私の方がどうにかなってしまいそうです。
「そうではなくて、あの……私、重いですから」
柚瑠木さんが見た目ほど細くない事は知っています。きちんと筋肉の付いた成人男性だと言う事は、何度も抱きしめられて分かっていましたから。
ですが背が低いとはいえ、私もそれなりの体重はあるのですから……
「僕は一度、月菜さんをホテルまでこうして運んでいます。貴女の体重でどうにかなるほど僕はやわな夫ではありません」
「えっ……あ、あの時?」
そういえば誘拐された時に、気を失ってそのままホテルの部屋にいた事が……てっきり他の方たちに運んでもらったとばかり思っていたのに。
「あの時も、柚瑠木さんが……?」
「当たり前でしょう? 月菜さんは僕の妻なんです、貴女を他人になんて任せられない」
あの時はただの契約妻でしかない、柚瑠木さんはそう言っていたのに……それでもやはり彼の中に優しさはあったのです。私は妻として大事にしてもらえていたのですね。
寝室の扉の前、両手の塞がった柚瑠木さんが立ち止まったので私がドアを開けます。それだけで、もう心臓は破裂するんじゃないかというくらいに高鳴っていて……
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