6657人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
「良いのですか? 千夏さんは、少し困っていらっしゃったようですけど……」
「いいんです、千夏はこうでもしないとあの家から出ようとしませんから。それに月菜さんに会えば彼女も少し前向きになるかもしれません」
普段は相手の考えを尊重するタイプの柚瑠木さんがそう言うのならば、そこにはちゃんとした理由があるはずです。それに私は千夏さんに会えるのが楽しみでもあったので、これ以上は彼の意見に反対もしませんでした。
柚瑠木さんは私と手を繋ぎ、売店でコーヒーと眠気覚まし用のタブレットを購入してそれを手渡してきます。
「まだ、目的地まで少し時間がかかりそうですから」
「柚瑠木さんと一緒なら、緊張で眠くなんて……」
渡されたタブレットを見ながらそう呟くと、彼は困ったように微笑んで……
「月菜さんは毎晩、この僕の隣で熟睡してるのに? そんな貴女の寝顔も可愛いですが、今日はもっと二人で話をしたいので」
夜に眠るのは仕方がない事なのでは? それに柚瑠木さんから優しく抱きしめられていると、安心してよく眠れるのです。
でも、もっと話したいと言われるのは嬉しいので、私はコクンと頷いて歩き出した柚瑠木さんについて行きます。
「すっかり暖かくなりましたね……」
「そうですね、春は月菜さんに似合う季節だと思います」
柚瑠木さんからの優しい言葉に、私の頬も春色に染まりそうで……本当に困ってしまいます。
最初のコメントを投稿しよう!