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「マスター、今日のランチお願い……」
スーツの男性がマスターと呼んだのは口髭のお洒落な五十代くらいの男性、どうやらこの人はこのカフェの常連さんなのでしょう。
素敵なマスターに笑顔の素敵なスタッフ、そしてこんなカッコいい男性のお客さんなんてこのお店に女性が多いのも頷けます。
そんな事をのほほんと考えていると……
「どうしたのかな? 今日は酷い声をしてる」
「ああ、今日は朝から会議で大きな声を出しっぱなしだったんだ。もう喉がガラガラで……」
よほど声が変わっているのでしょう、スーツの男性の言葉にマスターは渋い顔をしてみせました。男性は「大丈夫、大丈夫」と笑っているのですけど。
「どうぞ、のど飴です。たくさんあるので気休めくらいにはなるかと」
男性の横で黙って座っていた千夏さんが、バックの中から飴玉を取り出して男性に差し出しました。それでも知らない男性と話すのに緊張しているようで、顔は下を向いたまま。
けれどそうやって自分に出来る事は進んでやろうとするところ、とても素敵だと思います。
「ありがとう……ございます」
「いえ、早く良くなるといいですね」
少し驚きながらも飴玉を受け取る男性。千夏さんはすぐに男性から顔を隠すようにこちらを向きましたが、彼はしばらく千夏さんの事を見つめているようでした。
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