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「それじゃあ僕達も出ましょうか」
柚瑠木さんは支払いを済ませるとマスターにお礼を言って、立ち上がりました。私と千夏さんも立ち上がりマスターに頭を下げて店を出ようとすると……
「お姉さん、また来てくれないかな? さっきの彼はよくこの店に来てるから」
マスターのこの言葉、やはりさっきの男性はそうなのですね。ワクワクした気持ちで千夏さんを見ると、予想に反して彼女は沈んだ顔をしていたんです。
「ごめんなさい、私はきっとここにはもう……」
そうでした。千夏さんにはそう簡単に家から出る事の出来ない理由があるのです。ですが残念そうな千夏さんの表情を見てこのままにはしたくないと思ったんです。
「分かりました、私達が彼女をまたここに連れてきます。あの男性にもそう伝えてください!」
「つ、月菜さん?」
私の発言に驚いた様子の千夏さんと優しい表情で頷いてくれる柚瑠木さん。これがきっと今は一番良い方法なんじゃないかって。
いつかあの男性が千夏さんの中に大きな変化を生んでくれる気がしたんです。
「月菜さんったら、勝手に決めちゃうんだもの。意外と強引なのね?」
「千夏にはこれくらいがちょうどいいんですよ、よく言ってくれましたね月菜さん」
少し拗ねた表情をする千夏さん、そんな風にしても柚瑠木さんと私の中では決定したことなので諦めてくださいね?
「また来ましょうね、千夏さん?」
「なんなのよ、二人して……」
今はまだ何も気付いていない千夏さんが、もっと広い世界に興味を持ってくれるようにと柚瑠木さんと二人で微笑みました。
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