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「私が強かったらダメなんですか、柚瑠木さん……」
柚瑠木さんはどこに行くとも、いつ帰るとも言ってはくれませんでした。私と目を合わせようともせずに、あんな言葉だけを残されて平気でいられるほど……
「そんなに私は強くありません。柚瑠木さんだって私の事を何も分かっていないじゃないですか……」
ポタポタと腕に落ちてくる水滴を拭う事も出来ず、ただ彼が出ていってしまった扉を見つめるだけ。
私が想うように、柚瑠木さんは私を見てくれない……そういう契約の上での結婚なのだと分かってはいますが、苦しくて仕方ないんです。
零れ落ちる涙もそのままにその場に座り込むと、スマホが鳴りだして……画面には香津美さんの名前が。
「もしもし……」
「もしもし月菜さん?貴女がきっと心配していると思って。柚瑠木さんは今、聖壱さんと一緒に居るから大丈夫よ。遅くならないようにちゃあんと追い返すから、心配しないで頂戴ね。」
スマホの向こうから聞こえてくる、私を心配してくれている香津美さんの優しい声。香津美さんのその気持ちに涙が余計に溢れてきて……
「香津美さん、私……」
誰かに少しだけ弱音を吐きたかったのかもしれません。頑張りたいけれど、もうどう頑張ればいいのか分からなくなってしまったんです、と。
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