契約結婚でも新しい事を!

19/26
前へ
/322ページ
次へ
「私が強かったらダメなんですか、柚瑠木(ゆるぎ)さん……」  柚瑠木さんはどこに行くとも、いつ帰るとも言ってはくれませんでした。私と目を合わせようともせずに、あんな言葉だけを残されて平気でいられるほど…… 「そんなに私は強くありません。柚瑠木さんだって私の事を何も分かっていないじゃないですか……」  ポタポタと腕に落ちてくる水滴を拭う事も出来ず、ただ彼が出ていってしまった扉を見つめるだけ。  私が想うように、柚瑠木さんは私を見てくれない……そういう契約の上での結婚なのだと分かってはいますが、苦しくて仕方ないんです。  零れ落ちる涙もそのままにその場に座り込むと、スマホが鳴りだして……画面には香津美(かつみ)さんの名前が。 「もしもし……」 「もしもし月菜(つきな)さん?貴女がきっと心配していると思って。柚瑠木さんは今、聖壱(せいいち)さんと一緒に居るから大丈夫よ。遅くならないようにちゃあんと追い返すから、心配しないで頂戴ね。」  スマホの向こうから聞こえてくる、私を心配してくれている香津美さんの優しい声。香津美さんのその気持ちに涙が余計に溢れてきて…… 「香津美さん、私……」  誰かに少しだけ弱音を吐きたかったのかもしれません。頑張りたいけれど、もうどう頑張ればいいのか分からなくなってしまったんです、と。
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6681人が本棚に入れています
本棚に追加