小説家になりたい

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小説家になりたい

 山田 剛(つよし)、齢49歳。  彼は何年か前から小説を書いていた。 あわよくば新人賞でも受賞できたらとも思っていた。  なぜなら、  彼は八歳の時に母親と死別し、十三歳の時に父親が再婚し、新しく来た母親とはいつも喧嘩ばかり、新しい母親には娘がいた。  父親も再婚後新しい母親の味方につき、彼と弟はいつしか邪険な扱いをされていった。  こんな感じだから、家族関係ははっきり言って複雑なんてもんじゃない。  たまらず十九歳の時最愛の弟を残し、家を飛び出した。六条一間の風呂無しオンボロアパートに住み社会に対し背中を向け申し訳なさそうに細々と暮らして来た。  どうにかこうにか生計をたててはいたがバイトも長続きはせず金は一銭も無くなった。  生きることに絶望し二十歳の時に服毒自殺未遂をした。一命は取り留めたものの、最悪の事態を迎えた。2006年に弟が三十一歳と言う若さで自らの命を絶ったのだ。  そんな不遇続きの自分の人生を何としてでも形に残したい。それを表現するのに一番適しているのが小説を書くと言う行為ではないかと真剣に思っていた。  何も短略的にパッと思いついた訳では無い。母親を亡くし、新しい母親が来て上手くいかなかった頃くらいから、 「誰もが皆経験するものでも無い 人生で希有な経験をしてる人間は表現者たるべきだ」  これと言った根拠は無いが、本能的にそう思っていた。  
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