4人が本棚に入れています
本棚に追加
ボクの世界には欠落しているものがある。
どうしてなくなったのかは覚えていない。
自然がそこそこ残る地方都市で、普通の家庭で普通に育った。
そんなボクが失くしたのは、
「声」。
もうしばらくボクの声帯は震えていない。
食べ物を食べるのも、飲み物を飲むのも、なんの不便もないのに、音だけが発せられなくなった。
小林 隼人。二十歳。
別に事故にあったわけでも、イジメを受けたわけでもないのに、なぜか一年前から言葉が出なくなった。
進学した専門学校は、新型ウイルスのせいでオンライン授業。ボクにしてみれば少しだけラッキーだった。
自宅の自室で就活サイトをパソコンで覗いていれば、
「「隼人」」
二重に重なった声が、背後から聞こえてきた。
幼馴染の佐々木翔太と大下莉子。
幼稚園の年少クラスから高校までずっと一緒過ごしてきた。ボクの数少ない理解者たち。
最初のコメントを投稿しよう!