君に声が届くなら

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ボクの世界には欠落しているものがある。 どうしてなくなったのかは覚えていない。 自然がそこそこ残る地方都市で、普通の家庭で普通に育った。 そんなボクが失くしたのは、 「声」。 もうしばらくボクの声帯は震えていない。 食べ物を食べるのも、飲み物を飲むのも、なんの不便もないのに、音だけが発せられなくなった。 小林 隼人。二十歳。 別に事故にあったわけでも、イジメを受けたわけでもないのに、なぜか一年前から言葉が出なくなった。 進学した専門学校は、新型ウイルスのせいでオンライン授業。ボクにしてみれば少しだけラッキーだった。 自宅の自室で就活サイトをパソコンで覗いていれば、 「「隼人」」 二重に重なった声が、背後から聞こえてきた。 幼馴染の佐々木翔太と大下莉子。 幼稚園の年少クラスから高校までずっと一緒過ごしてきた。ボクの数少ない理解者たち。
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