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何も知らない人が見たら、ギョッとする光景だろう。
『ゴメン』
顔の前で手を合わせると、翔太は子供の頃と変わらない笑顔を見せた。
「ほれ」
向かいあって座ると、伸ばした指先が触れるのは、翔太の喉仏。
右手は翔太、左手はボクの喉元に。言葉を紡ぐたびに振動するソコは、同じ器官があるのに、ボクの方は、何も変化しない。
「隼人?」
何分くらいそうしていたのだろう。莉子の呼ぶ声で引き戻された。苦笑いをする翔太と、心配そうに見つめる莉子。
「どーして、泣きそうなの?」
水分がいつもよりも増えて、ゆらゆらと映像がゆがむ。
就活も気になりだして、きっと気持ちが不安定になっていたんだと思う。
「ゴメンね。辛くなった?」
書かないと、心配をかけてしまうのに、こぼれ落ちた涙は真っ白のままのホワイトボードの上で粒の形を残していく。
「焦るな。大丈夫だから」
察したように頭にのせられた手は、雑に髪を撫でて、体は細い腕に絡め取られた。
小柄な彼女に抱き寄せられたとわかったのは、柔らかな感触を頬に感じたから。
もう少し、こうしていたいと思うのは、なぜだろう。
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