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その日、私は親とケンカをしてしまい、家を飛び出しいつも遊ぶ公園より遠くの公園にたどり着いたんです。
ひとりっきりで遊ぶのは全然楽しくなかったのを今でも覚えています。
ですが友達と遊ぶ約束もしてないので、大人数で遊ぶ大好きな鬼ごっこなどはもちろん出来ず、公園の遊具で遊ぶのが精一杯でした。
日はゆっくりと沈み始め、公園の風景が真っ赤に染まりながら夜の帳が迫ってくるのがとても印象的で、綺麗だなと思いました。
不意に周りを見渡すと、私のようにひとりでいる男の子がいたんです。
膝を抱えてうずくまって顔を伏せている男の子。
ひとりで遊ぶのが寂しかった私は、その子に声をかけていました。
「君もひとり?私もひとりなの。一緒に遊ばない?」
物怖じをしないで、うずくまっていた男の子に声をかけた私は、その子が顔を上げてこちらを見たとき、声をかけたことを後悔しました。
顔はデコボコと腫れ上がり、髪はボサボサ。
よく見なくても体中痣だらけ。服は所々シミが黒ずんでいて、破れかぶれでとても尋常ではない。
幼心に、この子は普通の子ではないと、逃げたくなった私をどうか責めないでほしい。
男の子はただ私を見つめるだけで、一言も言葉を発しません。真っ黒な感情のない瞳が私を見つめていました。
どうしようかと立ちすくみ途方にくれていると、背後から、ひゅぅひゃらら、ひゅぅひゃらら~、と笛の音。
勢いよく後ろを振り返ると、3人の子どもと、それを引き連れた女がひとり。
キャペリンを深く被り顔はよく見えない。足元まであるロングのワンピースが風に揺れ世界を包む。
長い黒髪が地面に付き、蜘蛛の巣のように張り巡らされ子どもたちはそれを踏んでいる。
ここにいる全てのものの識別がつかない。
誰かれとなく「あなたはだれですか?」と尋ねた私は、確かに見たのです。
血のように赤い夕焼けの名残りが失われて沈む空を背にし、藍色の闇が広がる禍時に。
あぁ、これこそが「夕暮れの笛吹き女」
女がひゅぅひゃらら、ひゅぅひゃらら、と笛を吹くと、それまでうずくまっていた男の子が急に立ち上がりました。
それこそ母親を見つけてほっとしたように、嬉しそうに。
そうして女が引き連れていた3人の子どもの輪に加わりました。
3人の子ども全てが男の子と一様な姿。
薄汚れた服をはためかせ、がらんどうな瞳ははたして私を見ているのか、それとも何も見ていないのか。
息を忘れ腰を抜かす私をよそに、笛を吹きならし歩き始めた行進隊。
ひゅぅひゃらら、ひゅぅひゃらら、笛の音が風に乗り、夜が訪れた公園をひたすら進む。
逃げようとする私の考えとは違い、心はこの行進に加わりたいと叫ぶ。
逃げなくちゃ、一緒に行かなくちゃ、逃げよう、一緒に行こう。
相反する心の声を呆然と聞きながら笛吹き女の行進に加わろうとした、そのとき。
「おーい」と父の声。「どこにいるの?」と母の声。後方から私を探しているのだろう両親の声。
私は足をガクガクと震わせもつれさせながらも、両親の声が聞こえる方に走りました。
一度も振り返ることはなく、遠くから笛の音が小さく細くなるのを聞きながらただただ両親の下へ。
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