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綺麗な落とし物
「マスター。今、何か落としましたよ?」
ロボットAIであるSHIN(シン)が、私の顔をじっと見ながらそう言った。
「えっ? 落とした?」
私はハッと顔を上げ、そして自分の足元を見た。だが、何も落ちてはいない。
「SHIN、何も落ちてないじゃない」
「いえ、でも……。確かに、マスターの目から何かが落ちたんです」
SHINの言葉に、私は「ああ」と言って指で目元を拭った。
「それは、涙よ」
「涙?」
「ええ。人間は、悲しい時や嬉しい時に涙を流すの。それがこぼれ落ちたのね」
私がそう言うと、SHINは少し考える素振りをした。
SHINは「悲しい」とか「嬉しい」という感情を理論上理解することはできる。しかし、それらを感じることはできないし、「悲しいから、涙を流す」ということも理解できない。
それでも、何か一つの答えを導き出したようだ。
「マスターは……、悲しいのですか?」
「ええ。親しかった友人が亡くなったのよ」
「そうですか。それは悲しいですね」
SHINはそう言って、哀れむように私を見た。友人が亡くなるという事が、悲しい事だと理解したからだ。だが、当然SHINに涙を流すことはできない。
すると、SHINは意外な事を言った。
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