存在感

1/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

存在感

人は無意識ながらも誰かの役に立とうとして、自分の存在をそこに示そうとするらしい。 その誰かが他者でなく、自分自身であろうとも。 集団生活を送って幾許。 学生生活の当番決めというのは、もしかしたらそう言う意味合いもあったのかもしれない、と今更ながら思う。 存在感。 それがなくなってしまった人から消えてしまうらしい。 故に、誰もが良くも悪くも、自分の存在をアピールし、象徴をし、自分と言う存在を知らしめようと躍起になっている。 それが正しい。 少なくとも、自分が生きているこの世界ではそれが正しいんだ。 存在が消えるだなんて、死と同じ。予想もできなければ、経験もできない目には誰だって合いたくないんだから。 偉人も有名人も、残した過去を少しばかり持ち上げられるだけで終わるのだから、僕のような一般人が消えたとしても、なんとも思われないんだろうなぁ。 いてもいなくてもよい存在であると、自分の思いが強くなると徐々に自分の体は薄れていくらしい。 まるで透明人間のように。 そして完全に消えると同時に、自分の存在していた跡や過去は消え記憶からも消えるのだとか。 それに恐怖する人もいるのだろうが、僕は逆に喜びを感じた。 少なくとも今現在は。 誰からも必要とされていないのだ。それを周りが証明してくるのだから、自分で自分を『居なければならない』と思う理由にはならない。 さっと吹く風に心地よさを感じながら、町並みを見渡す。 僕が何度も足を運ぶ町並みをある程度見渡せる山である。 ここで消えてしまうのも、オツなものだろう。最後ぐらい自分の望んだ形で消えてもいいはずだ。 と、僕の気持ちとは裏腹に、携帯にショートメールが入った。 『今週末、飯にいかね?焼き肉いこうじゃん』 なんとタイミングの悪いことか、また友人からの誘いが入ってしまった。 もうかれこれ何度目か分からない。 ウザいと思うこともあったが、数少ない友人からの誘いだ。もう人生の半分以上を共にしてきたと言っても過言ではない。 それだけ長い付き合いなのだから、断りにくい。 『いいよ』 僕はそれだけを返し、山を降りる事にした。 友人との約束を終えてからにしても、遅くはないだろう。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!