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存在感
人は無意識ながらも誰かの役に立とうとして、自分の存在をそこに示そうとするらしい。
その誰かが他者でなく、自分自身であろうとも。
集団生活を送って幾許。
学生生活の当番決めというのは、もしかしたらそう言う意味合いもあったのかもしれない、と今更ながら思う。
存在感。
それがなくなってしまった人から消えてしまうらしい。
故に、誰もが良くも悪くも、自分の存在をアピールし、象徴をし、自分と言う存在を知らしめようと躍起になっている。
それが正しい。
少なくとも、自分が生きているこの世界ではそれが正しいんだ。
存在が消えるだなんて、死と同じ。予想もできなければ、経験もできない目には誰だって合いたくないんだから。
偉人も有名人も、残した過去を少しばかり持ち上げられるだけで終わるのだから、僕のような一般人が消えたとしても、なんとも思われないんだろうなぁ。
いてもいなくてもよい存在であると、自分の思いが強くなると徐々に自分の体は薄れていくらしい。
まるで透明人間のように。
そして完全に消えると同時に、自分の存在していた跡や過去は消え記憶からも消えるのだとか。
それに恐怖する人もいるのだろうが、僕は逆に喜びを感じた。
少なくとも今現在は。
誰からも必要とされていないのだ。それを周りが証明してくるのだから、自分で自分を『居なければならない』と思う理由にはならない。
さっと吹く風に心地よさを感じながら、町並みを見渡す。
僕が何度も足を運ぶ町並みをある程度見渡せる山である。
ここで消えてしまうのも、オツなものだろう。最後ぐらい自分の望んだ形で消えてもいいはずだ。
と、僕の気持ちとは裏腹に、携帯にショートメールが入った。
『今週末、飯にいかね?焼き肉いこうじゃん』
なんとタイミングの悪いことか、また友人からの誘いが入ってしまった。
もうかれこれ何度目か分からない。
ウザいと思うこともあったが、数少ない友人からの誘いだ。もう人生の半分以上を共にしてきたと言っても過言ではない。
それだけ長い付き合いなのだから、断りにくい。
『いいよ』
僕はそれだけを返し、山を降りる事にした。
友人との約束を終えてからにしても、遅くはないだろう。
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