VD-9907 Resurrection

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VD-9907 Resurrection

 以下はビデオカメラで撮影された映像を文字に起こしたものである。  括弧(かっこ)内は音及び捕捉を記入する。  Y県H市 薄白(うすしろ)地区の小学校 校庭  地元の少年ソフトボールクラブ 撮影 (1999年7月24日、午後8時) (校庭に30人近くの親子がいる) (ソフトボール大会直後の打ち上げパーティーを行っている) (一人の男子がオードブルを指さしている) 「ねー母さん、これ()ってもいい?」 「いいわよー」(撮影者が答える) 「よっしゃ!あぐ、むぐ(咀嚼音(そしゃくおん))うめーっ!」 「こら!そんな一気に口に入れません!」 「むぐぐっ!もぐぐぐーっ!」 「食べながらしゃべらない!」 (撮影する対象が変わる) (隣でジュースを注ぐ音) 「ジュースなくなっちゃったー」 「じゃあそっちのクーラーボックスから出してくれる?」 (母親が子供に指示を出している) 「じゃあこれ!えいっ」 (炭酸ジュースのペットボトルを空ける音) (ジュースが吹きこぼれる音) 「うわわわわっ!?どっどどどど」 「も~ぅ、何しているのよ~」 ((こぼ)れたジュースをタオルで吸い取る母親) (撮影する対象が変わる) (低年齢と思われる子が遠くで追いかけっこをしている) 「待てーっ」 「こっこまぁでおーいでー♪」 「こらーっ!危ないから近くにいなさーい!」(母親らしき声) (二人の動きがぴたりと止まる) 「うわぁ、こわーい」 「こわいねー」 「もうお菓子(かし)なしにするよ-っ!?」 「うわーんっ!それはいやーっ!」 「すぐ戻るぅーっ!」 (駆け寄ってくる二人の子供) (撮影する対象が変わる) (隣り合って座り、料理を取り分ける二人の男子) 「あーっ、それ僕の唐揚げーっ!」 「オレのだし」 「じゃあ僕はこっちもらう!」 「お前、そのコロッケは反則だろ!」 (お互いの皿へ(はし)を伸ばして取り合う) (撮影する対象が変わる) (校舎から出てくる大皿を持った母親) 「料理運ぶの手伝ってくれるー?」 「えー、めんどくさい」 「はいはい、六年生は年上らしいところを見せなさい」 「しょうがねーなー」 「そんなに運ぶのが嫌だって言うなら、別に食べなくてもいいけど?」 「食べます食べます!手伝わせていただきますって!」 (背の高い子供達が呼びかけた母親の元へ向かおうとする) 「ねぇ、みんな。ちょっと来て」 (カメラが校庭の端にいる男の子に向けられる) 「何だよ、料理運ばなきゃいけないんだけど」 「なんか変なんだ。すぐ来てほしい」 「はぁ?だーかーらー、出来たて料理が待っている――」 「いいから来てって!」 (一瞬びくっと震える子供達) (映像が大きくブレる) (撮影者含めた大勢が、何かを見たらしい男子の元へ駆け寄る) 「どーしたんだよ?」 「向こうで、なんか光った」 (山の方を指さす男の子) (山に(あか)りはなく、黒い影しか映っていない) 「はぁ?何も見えねーぞ?」 「さっき、びかびかって光ったんだよ!でもすぐに光がなくなって……」 (途中から口ごもる男子) ((しば)しの沈黙) 「んなわけねーだろ。だってあっちはもう誰も住んでないんだから」 「そうそう、あそこにわざわざ行こうとする人なんていないって」 「怖いし危ないし、いいこと全然ないし~」 「おばけ出そうだもんね。一度入ったら帰れない~♪……なんて」 「やめてよ~」 (一人目を皮切りに、次々と否定の言葉を発する子供達) 「だからだよ!そんなところで光ったから怖いんだよ!」 (なおも男子は食い下がる。声が震えている) 「そんなこと言ったって……、お前が見たってだけじゃ――」 (ごとん、と重い物が落ちる音) (カメラが地面の方に向く) (何かを見たらしい男子の首が、撮影者の足元に転がってくる) (男子の胴体の後ろに、巨大な(うごめ)く黒い影) (全員が恐怖で体を硬直させている) 「きゃああああああああっ!?」 (映像が大きく乱れる) (周囲で子供と保護者の悲鳴が上がり、入り混じる) (硬直が解けた全員が一斉に逃げ出す) 「ひぃっ、ひっ」 (ブレた映像。撮影者が走っているため地面と夜の闇の色しか判別がつかない) (周囲で次々と悲鳴が上がる) (黒い塊、おそらく肉片らしきものが横から飛んでくる) 「助けて、ママ――」 「やめてぇっ!うちの子を――ひぎゃあっ!?」 (背後から親子の悲鳴) (断末魔(だんまつま)に混じり、湿(しめ)った音。ずぶ()れの靴音?に似ている) 「う、う……そ……」 (撮影者の足が止まる) (映像のブレがなくなる。前方には死体の山がある) (死体の多くが原形を留めていない状態になっている) 「ひ、ひぃっ!?」 (ノイズが走り、映像が校庭へと向けられる) (校庭には血だまりが出来ている) (血だまりの中心に、大きな影。死体の山を築いた者の正体と思われる) (細長い影が伸びてくる) 「あぐっ」 (撮影者、倒れ込む) (夜空の星々が白い光の軌跡を描く) (投げ出されたビデオカメラが地面に落ちる。ノイズが大きく走る) (横倒しのまま、生存者のいない校庭を映す) (黒い影が横切る) (死体の山と血だまりが消えていく) (虫の鳴き声) (以下略)  薄白集団親子行方不明事件  事件現場に残されたビデオカメラの映像 1999年7月24日撮影
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