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その1
とある森の中、ある日の泉。
それはもう、ひと目で女神と分かる神々しさ。色々と白い。
「あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも、銀の斧ですか?」
問われたのは若い樵。それなりに凛々しい顔立ちだが、愛着のある斧を失くしてしまっては眉尻も下がろうというもの。
鍛錬だとばかりに振り回して歩いていたのが災いした。
「鉄製です。安物だけど、手に馴染んでるんです」
「正直者ですね。では、これを」
男は泉の縁へ進み出て、差し出された斧を受け取る。が、自然と男の首は傾いでいった。
「……鉄ですね」
「ええ。それを落としたのでしょう?」
握って振った男は、ひどく顔をしかめてみせる。違和感が。
「ちょっと……小さくないですか?」
「一割頂きましたので。遺失物法二十八条です」
「せこっ!」
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