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その2
とある森の中、ある日の泉。
それはもう、ひと目で女神と分かる眩しさ。
「あなたが落としたのは、鉄の斧ですか? それとも、銀の斧ですか?」
「金の斧です。祭の樵コンテストで優勝しましてね。純金なんですよ、綺麗でしょ?」
「…………」
またも斧を振り回していた男もどうかしているが、その表情は案外に明るい。
ここは女神の泉、落としても拾ってもらえるのだから。男は学習してしまったのだ。
「早切り部門じゃ三位だったけど、高所切りで逆転勝ちしまして」
「私は知らない世界ですが、頑張ったのですね」
「いやあ、ピンチにつぐピンチでしたけど。誰かさんが斧を小さくしたせいで、切るスピードが落ちたから」
「まあ、それは災難でしたねえ。でも優勝出来たのでしょう?」
「小さい斧は取り回しが楽なんですよ。慣れれば使いやすいもんだ」
「それぞ女神の思し召し」
「自分で言っちゃいますかあ、はは」
樵コンテストは世界各地で開かれている。マイナーではあっても、一部に熱狂的なファンが存在する競技だ。いや、ここはノンフィクションである。本当にあるんだって。
そんなコンテストで優勝すれば、男が浮かれるのも致し方なし。
「しかしながら、大事な副賞を落とすとは粗忽者ですね」
「面目ない。嬉しいからって、持ち歩いちゃダメでした」
照れ笑う男へ、女神も優しい笑みを返す。
「以後、気をつけるのですよ」
「はい」
「もう無くさないように、私が保管――」
「返せや」
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