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そうしているうちに、琉偉くんは、私の両親が、私のことを「美月」と呼ぶのが移ったみたいで、時々、
「美月、あ、みっちゃん」
と呼び間違えることが増えてきた。
だから、私が
「美月でいいよ。もう小さい子じゃないんだし」
と言うと、それ以来、琉偉くんは、私のことを「美月」と呼ぶようになった。
琉偉くんに「美月」と呼ばれることが、嬉しい反面、時々、ブレーキが効かなくなりそうで、怖くもある。
だって、男性で私を呼び捨てにするのって、家族か元カレだけだったから。
私たちは、そんな風にただの同居人として1年を過ごしてきた。
そして、桜が散り始めたその日、琉偉くんは言ったんだ。
「なぁ、美月、最近、デートに行かなくない?」
ごまかして朝食を食べる私に、琉偉くんは言った。
「よし! じゃあ、花見に行こう!」
えっ!?
「そういえば、琉偉くんも最近デートしてなくない?」
週末、家にいることが多い気がする。
「……別れたから。ほら、美月、さっさと食べて行こう!」
えっ!?
琉偉くんは、驚いて固まる私を急かす。
別れたって……
気になりながらも、それ以上、尋ねることもできず、私は、慌てて、化粧をして、身支度を整える。
琉偉くん、振られて寂しいから、私を誘ったのかな。
まぁ、1番手近にいる友人だもんね。
私たちは、レジャーシートを持って近所の公園に向かった。
「綺麗〜!」
降りしきる桜吹雪に、思わず、声を上げた私。
すると、その私の手を、琉偉くんがそっと握った。
えっ!?
私は、どうしていいか分からなくて、振り返ることもせず、何もなかったような、全く気にしてない素振りをする。
私たちは、公園の中を桜吹雪を浴びながら、ゆっくりと散策する。もちろん、手をつないだまま。
私は、手を繋がれた右半分だけ、ぎこちなくて、うまく歩けてるかどうかも自信がない。
「美月、あそこ空いてる! あそこにしよう!」
琉偉くんが1本だけポツンとはずれた桜の木を指して言った。
「うん」
レジャーシートを敷くために、琉偉くんが手を離す。
なんだか、ほっとしたような、寂しいような不思議な気分。
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