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シートを広げて、私たちは、並んで座る。
はらはらと舞い落ちる桜の花びらが、シートの上にひとつ、またひとつと、ごく淡いピンク色の模様を作っていく。
「俺、美月の彼氏に会ったことない」
琉偉くんが切り出した。
そりゃ、そうだよ。
琉偉くんが来て、すぐに別れてるもん。
でも、そんなこと、正直に言えなくて……
「忙しいからね」
といつもの言い訳でごまかした。
「美月は平気なの?」
琉偉くんの真っ直ぐに向けられた視線が痛い。
ずっと嘘をついてるから。
私は、答えることもできず、かといって、真っ直ぐ見つめる琉偉くんと視線を合わすことも出来ず、ただ、無言でシートに降り積もる花びらを見つめていた。
「美月?」
琉偉くんの声が、優しく響く。
「……うん」
私は、シートを見つめたまま、返事をする。
「俺、振られたんだ」
突然の告白に、私は驚いて顔を上げた。
「なんで?」
琉偉くんを振る理由が分からない。
ルックスはもちろんだけど、性格だって悪くない。
優しくて、素直で、ちょっと悪ふざけをする時もあるけど、そんなのかわいいものだ。
「俺が、ちゃんと好きじゃないからって。
彼女だけをちゃんと見てないって」
琉偉くんの声が静かに告げる。
そんなの……
琉偉くんは、うちに彼女を連れてきた時だって、私が嫉妬するくらい、ちゃんと優しくしてたのに……
「ちゃんと、否定した?
そんなことないって言ってあげた?」
彼女は、ただ愛してるって言って欲しかっただけじゃないの?
だけど、琉偉くんは、静かに首を横に振った。
「言えなかった。だって、図星だったから」
えっ?
私は、驚いて琉偉くんを見つめる。
「俺、彼女に告白された時、他に好きな人がいたんだ。でも、彼女には、ちゃんと彼氏がいて……
だから、彼女を諦めるために、付き合ったんだ。
付き合ってみたら、好きになれるんじゃないかって思って。
でも、ダメだった。やっぱり、好きな人は簡単には忘れられないし、デートしててもこれが彼女だったらって比べちゃうし……」
琉偉くんに、そんなに好きな人がいるなんて、知らなかった。
私の胸は、モヤモヤが広がって、切なくて苦しくて、どうしていいか分からなくなる。
でも、ここで取り乱すわけにはいかない。
私は、琉偉くんが大学を卒業するまで、ずっとお姉さんとして一緒に生活しなきゃいけないんだから。
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