一家の主たるユエン

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一家の主たるユエン

夏本番は外で働く者にとってはまさに地獄だ。 いや、温暖化の影響で年々暑さは増している。 こっちは増すのは老いばかり。あと加齢臭。あと体重。あと家族の冷たさ。 色々と増しているな。増すことはいいことだ。いいことか?うん、いいことにしとこう。 暑さで考えたくもない。 帰ったら絶対、ビール片手におっさんとラブを見てやる。覚えとけ、夏い暑よ。 あのビールの香りはたまらんからな。ずっと嗅いでいたいくらいだ。 自慢じゃないが、俺の特技は誰よりも鼻がきくこと。犬にも勝つ自信がある。 早く夏よ終わって冬になれ。 オレの会社は季節に左右される。夏は19時、冬は17時まで。 どちらも暗くなるまでには家に着いている。 だが同じ給料なら短いに越したことはない。 やっと昼休みになり、一番安いのり弁を食べる。いや、一番安くはない。今日は大盛だから安くはない。 しかもカップ麺つき。見たことないメーカーだ。安い上にレアもの。 スマホを見ると妻からLINEが来ていた。 今日は帰りに何を買って帰ればいいのか、親切にいつも教えてくれる。 だが見るといつもと違う文面。 『課長の奥さんが子猫を保護したそうです。引き取るわよ?』 なんだ、改まって。 猫ぐらい飼えばいい。野良ならブランド?で金はかからないんだから。 ここは一家の(あるじ)たるオレが、太っ腹なとこを見せてやる。 『了解しました♪』 どうだ。大人の広い心に今頃妻は驚いていることだろう。 反抗期真っ只中の子供たちも、オレを見る目が変わる。 こりゃ、今夜のビールはうまくなるぞ。 このときのオレの判断が、鮮烈なる戦を生むとは夢にも思わなかった……
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