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砂糖うさぎと果糖うさぎがいました。
うさぎはみなさびしい動物です。
例えば、雨降りの寒い夜なんか、
ひとりでいると、誰かに電話をかけたくなります。
「つー、つー」と、
音がして、次に、「かち」っと、
何かが切り替わった音がして、
うさぎの声が聞こえてきます。
「もしもし・・・」
果糖うさぎの眠そうな甘い声と、
「こんばんは。」
という、はっきりと短い砂糖うさぎの声が、響き合います。
いつも果糖うさぎから砂糖うさぎに電話をかけるので、
果糖うさぎは、何だか恥ずかしくて、もじもじしてしまいますが、
砂糖うさぎは、かかってきた電話を取るだけなので、
自分が同じうさぎだということ、
つまりは、さびしい動物だということを、
忘れているのです。
「今日はどうしたの。」と、
笑いながら、明るく余裕で、砂糖うさぎは、聞きます。
「いや、ちょっと、電話しただけなの。」
と、口ごもり、果糖うさぎは言い訳を探すように、答えます。
果糖うさぎは砂糖うさぎのこと、嫌いではありませんでした。
むしろ、好きというか、退屈すると、
砂糖うさぎの砂糖の街のことを聞けるのが、
愉しみでした。
砂糖の街には、砂糖でできた家とか、
砂糖をたくさん使った苺のケーキとか、
綺麗なものや、美味しいものがたくさんありました。
「あなたも、いつまでもそこにいては、いけないわ。
一生、おばあちゃんになっても、そこでひとりで、
暮らすつもり? あなたも、砂糖の街に、いらっしゃいよ。」
砂糖うさぎは、自分の街のことしか知らないので、
それが一番良いというように、そして、
果糖うさぎのためでもあるように、
励ますように、言ってくれます。
一方、果糖うさぎの家は、
丈夫な木でできていて、周りは、果樹園でした。
かりんとか、いちじくとか、
秋のくだものが、今年は特に、できがよく、
たくさん実っていました。
「あのひとは、砂糖の街に暮らして、心まで、
雪より冷たい白い砂糖になってしまったようだわ。
何で、そう、私に、ここを出ればいいなんて、
嫌なことをいうのかしら。」と、
果糖うさぎは、心の中で思いました。が、
きっと、自分を心配してくれているのであろう、
砂糖うさぎに、そう言う気にも、なれませんでした。
かわりに、こう言いました。
「かりんが、なったから、送るわ。宅配で。」
「〈かりん〉って、なあに?」
砂糖うさぎは、珍しそうに聞きました。
そう、砂糖の街には、人工甘味料の砂糖しか、ありませんので。
「〈かりん〉って、知ってる?
黄色い実でね、表面は、バターのように、
しっとりとしていてね、そのまま、まるごと、
お風呂に入れてもあったまるし、
かりん酒にしてもいいのよ。」
そして、果糖うさぎは、思いました。
「砂糖の街は、面白そうで、
たまには行ってみたいけれど、
住みたいところでは、ないの。」
そして、今まで、退屈に思えた自分の日々が、
急に、生き生きと、しだしたのに、気づきました。
果糖うさぎは、自分が世界で一番、しあわせなうさぎだと、思いました。
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