砂糖うさぎと果糖うさぎ

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 砂糖うさぎと果糖うさぎがいました。  うさぎはみなさびしい動物です。 例えば、雨降りの寒い夜なんか、 ひとりでいると、誰かに電話をかけたくなります。  「つー、つー」と、 音がして、次に、「かち」っと、 何かが切り替わった音がして、 うさぎの声が聞こえてきます。  「もしもし・・・」  果糖うさぎの眠そうな甘い声と、  「こんばんは。」 という、はっきりと短い砂糖うさぎの声が、響き合います。  いつも果糖うさぎから砂糖うさぎに電話をかけるので、 果糖うさぎは、何だか恥ずかしくて、もじもじしてしまいますが、 砂糖うさぎは、かかってきた電話を取るだけなので、 自分が同じうさぎだということ、 つまりは、さびしい動物だということを、 忘れているのです。  「今日はどうしたの。」と、 笑いながら、明るく余裕で、砂糖うさぎは、聞きます。  「いや、ちょっと、電話しただけなの。」 と、口ごもり、果糖うさぎは言い訳を探すように、答えます。  果糖うさぎは砂糖うさぎのこと、嫌いではありませんでした。 むしろ、好きというか、退屈すると、 砂糖うさぎの砂糖の街のことを聞けるのが、 愉しみでした。  砂糖の街には、砂糖でできた家とか、 砂糖をたくさん使った苺のケーキとか、 綺麗なものや、美味しいものがたくさんありました。  「あなたも、いつまでもそこにいては、いけないわ。 一生、おばあちゃんになっても、そこでひとりで、 暮らすつもり? あなたも、砂糖の街に、いらっしゃいよ。」  砂糖うさぎは、自分の街のことしか知らないので、 それが一番良いというように、そして、 果糖うさぎのためでもあるように、 励ますように、言ってくれます。  一方、果糖うさぎの家は、 丈夫な木でできていて、周りは、果樹園でした。 かりんとか、いちじくとか、 秋のくだものが、今年は特に、できがよく、 たくさん実っていました。  「あのひとは、砂糖の街に暮らして、心まで、 雪より冷たい白い砂糖になってしまったようだわ。 何で、そう、私に、ここを出ればいいなんて、 嫌なことをいうのかしら。」と、 果糖うさぎは、心の中で思いました。が、 きっと、自分を心配してくれているのであろう、 砂糖うさぎに、そう言う気にも、なれませんでした。  かわりに、こう言いました。  「かりんが、なったから、送るわ。宅配で。」  「〈かりん〉って、なあに?」  砂糖うさぎは、珍しそうに聞きました。 そう、砂糖の街には、人工甘味料の砂糖しか、ありませんので。  「〈かりん〉って、知ってる?  黄色い実でね、表面は、バターのように、 しっとりとしていてね、そのまま、まるごと、 お風呂に入れてもあったまるし、 かりん酒にしてもいいのよ。」  そして、果糖うさぎは、思いました。 「砂糖の街は、面白そうで、 たまには行ってみたいけれど、 住みたいところでは、ないの。」  そして、今まで、退屈に思えた自分の日々が、 急に、生き生きと、しだしたのに、気づきました。 果糖うさぎは、自分が世界で一番、しあわせなうさぎだと、思いました。  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加