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次の日、緊張しながら高杉は出勤した。
七時三十分には仕事着に着替え、自分の担当する個体の体調を素早くチェックする。
「おはようございます。今日も早いね」
「う、うん……」
ヘサキリクガメの後ろ足の化膿を見ている所で、藤木が声をかけてきた。続けて来た佐藤と宮城島の後ろで、浅香ミオが眠そうにしている。
「浅香さんっ、お、おはよう!」
上擦った高杉の声に、藤木たちが一斉にミオを振り返る。その視線の中、ミオが小さく舌打ちをした。
「……おはようございます」
「おい高杉、挨拶したの俺だよ? なのに浅香さんだけにって……怪しいなぁ」
「やだ藤木さんっ! 私と高杉さんってどんだけ年が離れてると思ってるんですかぁ! 変な事言わないでくださいよぉ!」
ミオが藤木の腕にしがみついて訂正すると、藤木も「えー違うのぉ」と笑顔でじゃれ合う。それだけで周りのスタッフが、高杉の挨拶など元々なかったように談笑し自分の仕事に入っていく。
少しでもこちらを見てくれるんじゃないかと、高杉はミオの後頭部をずっと目で追った。しかし一度も振り向かず、ミオは改装準備中のナイルワニのブースへ消えていく。
みんなに秘密ですよ、と言ったのは、昨日の情事だけでなく、二人が交際を始めたことも含むのか。
高杉は浮かれていた気持ちが宙ぶらりんになったように感じた。
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