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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
何とか仕事が終わり、無事に救出した子猫を連れて依頼人が帰った後。俺は事務所で一人、足にシップを貼っていた。
「っ!」
脚立から落ちた瞬間。
咄嗟に体を丸め込み受け身を取ったおかげで『背中を打つ』などの大事には至らなかったものの、近くに置いて合った脚立に足をぶつけてしまい、その部分が青く変色していた。
「はぁ、最っ悪」
俺の名前は『西条翼』と言い、ここで『探偵事務所』を開いている。
しかし、この『探偵』というのは名ばかりだ。
正直な話。ここ最近の依頼で探偵らしいものは『ペット探し』ぐらいで、それ以外のほとんどは「おおよそ探偵とか関係ないよな?」と言いたくなるような雑用ばかりだった。
「別にいいけどな」
俺としては、基本的に人の役に立ちたい人間だから、何かしら特別な資格がいる……とか、犯罪に関わるようなモノでなければ、例えそれが『探偵である必要がなくても』断る事はない。
いや、そもそも断る理由がない。
「まぁ」
こんな『のどか』という言葉が似合ってしまう、緑が多く生い茂るこの土地に『探偵』なんてそもそも必要ないと思うが。
「だからと言って『修理屋』とか『何でも屋』扱いにされるのはちょっとな」
特に断る事なく、依頼されれば何でも引き受けた結果。
今ではここの住民は「あの『探偵』に頼めば、大抵の事はどうにかしてくれる」と思ってしまっているらしい。
そして、今回の依頼人もそんな話を聞きつけて来た人だった。
「まぁ、見つかってよかったけどな……ん?」
そんな誰も聞いていない独り言をブツブツとつぶやいていると、ふとズボンのポケットに入れているスマートフォンが鳴った。
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