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「いっ、いらっしゃいませー」
俺が自動ドアを通ると、女性店員がそう言ってぎこちない笑顔を見せた。
「……」
この『笑顔』が一瞬ひきつっている様に見えたのは、多分。ここで働き始めてそんなに時間が経っていないからだろう。
つい二週間くらい前にここに来た時に、この人の姿を見た覚えがないから、その間に入った人ではないだろうか。
「すみません、シュークリームを買いに来たのですが」
「はっ、はい。こちらになります」
店員が指したショーケースには、シュークリームの皮がたくさん並べられていた。
ここのシュークリームは、注文を受けてから、クリームを入れるという形になっており、その大きさは、スーパーなどで市販されているモノより一回り大きくなっている。
「では、コレを……四つ頂けますか?」
「はっ、はい」
店員が一瞬固まったのは、ひょっとしたら「俺が一人で四つも食べる」と思ったのかも知れない。
確かに『スイーツ好きの男の人』が最近は多いっていうのを聞いた事はあるが、残念ながらそうではない。
弟は、いつも俺が多めに買ってきたシュークリームを備え付けられている冷蔵庫に入れて、数日かけて食べるのだ。
最初はただ単純に「多めの方がいいか」と思って買って行っただけだったのだが、次に二つだけ買って行くと。
『あっ、ありがとう……えと』
あの時の弟の表情は「あれ、二つだけ?」なんて、さすがに顔には出さなかったものの、弟の背景は明らかに「しょんぼり」という言葉が見えた様な気がした。
だから、それからは少し多めに買って行くようにしている。
「しょっ、少々お待ちください」
それにしても、本当に慣れていないのだろう。さっきから、店員は何か話そうとするたびに、言葉に詰まっている様に聞こえた。
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