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丹治比・大仙陵墓
丹治比の国に太陽が昇ると、どんよりした重苦しい空が一時的に強い光で照らされた。それは一日のうちで二回、それぞれほんの半時間ほどの出来事であり、太陽は昇るにつれ厚い雲に隠れてしまい、また重苦しい灰色の空に逆戻りだ。この次太陽が顔を出すのは夕陽が沈む半時間ということになる。
空も暗ければ大地も暗い。国のおよそ八割が湿地である。その中に立つ巨大な陵墓をミズチの侵入から衛るため、四方の見張り台に歩哨が立っていた。
強い太陽の光が見張り台の者たちの目を刺した。サチは眩しさに目を細めたが、ミズチどもはこの時間にはあらわれないことを思い出し、しばらく目を閉じたままでいた。
ここは風の音しかしない、死者の国だ。巫女たちはただ、粛々と毎日の祈りを捧げる。神の眠りを妨げるものが出てきませんように。この陵墓が今日も一日、平穏でありますように。風が柏の葉をそっと揺らせますように。
しかしバタバタと騒がしい足音が聞こえてきて、サチは舌打ちをしながら半目を開けた。
上半身はだかの踊り連だ。踊り連はみなほとんど同じ顔だから誰が誰だか、サチには判別つかない。
「おーい巫女よぉー、今から臨時会議を始めるって言ってるよお」
サチの立つこの場所は東向きの見張り台になる。前方後円墳の方と円との繋ぎ場に左右、出城のように造られた四角い台の上に双方、巫女が六人、掃討武人が六人並んで立っている。巫女は祈りを捧げ、掃討武人はミズチの襲来がないか見張っているのだ。
「おお、そうかわかったぞ。今から向かうからな」サチの上役にあたる大巫女ヨツバが応えた。
「ではみなさん、行きましょう」と言ってから、掃討武人のリーダーに向かって、
「しばらく離れますが、よろしく頼みます」と挨拶した。
歩哨まで会議に参加するわけにはいかない。
巫女たちは短い足をちょこまかさせて坂を上がった。円丘の中心部までやってくると、そこにある地下通路から基地内に入った。
地下の施設はなかなか広大だが、巫女たちは階段を降りて一番近い大広間に入っていった。
そこにいたのは陵墓守の司令官である掃討武人シンを中心に、作戦を司る山高帽の参謀チグ、上級掃討武人、踊り連の男たち、呪術を司る呪呪師たち、法術を司る他の巫女たち総勢五十人であった。
サチたちが円の中に入ると、これで全員が揃ったようである。
「それでは会議を始める。大事な話があるが、その前に先日の国勢調査の結果じゃ」
丹治比の国ではひと月に一度、国勢調査が行われる。それは国内にいる全ての守り人(もりびと)の増減を調べることで、この地に棲むミズチが増えているのか減っているのかを見るものである。
「先月の守り人の数だが、33人減って、2,145人となった」
おおッとどよめきがおきた。守り人は六か月連続で減り続けている。守り人が減っているということは・・・。
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