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「ご存じのようにミズチは各地に隠れ家をもっており、我々がひとつ見つけても、また別に隠れ家を作るといった、いたちごっこを繰り返しておる。去年の今頃はミズチの総数は我ら守り人とほぼ同数と報告したが、ここ八か月連続で守り人が減っていることを考えあわせると、ミズチどもは我らの二割増しくらいに増えているのではないかと予想される」
さらに大きなどよめきがおきた。このままでは神々の眠る陵墓群がミズチどもに占領されてしまうのではないか、と心配しているのだ。
「皆が今、何を心配しているのかはわかる。実はその心配はすでに現実になりつつある。昨日、ミズアオイの丘がミズチに襲われた」
「!それで守り人たちは?」踊り連のひとりが聞いた。
「・・・全滅じゃ」
サチはヨツバに顔を向けた。
「ミズアオイの丘の巫女というと、トーン様では?」
ヨツバは強張った顔をしてうなずいた。
「いたすけ陵墓はどうなりましたか?」向こう側に立つ武人が聞いた。
「そちらにもミズチの侵入があり、いくらかの被害が出た。しかしなんとか撃退した」
「それは良かった」
「ミズアオイの丘については御廟山陵墓といたすけ陵墓、両方から攻撃部隊が出て奪還に成功した」
あちこちから安堵のため息が聞こえた。
大変なことが起きた、とサチは感じていた。しかしあたしたちにできることはただ祈ることだけ。大仙陵墓に眠るオオサザキ王の躯を祈りで守るのみなのだ。
「さてミズアオイの陣地を建て直さねばならん。人の数に余裕のあるここ大仙陵墓基地より派遣することとする。トンボ、一歩前へ!」
「はい!」と動いたのは近くに立っていた若い掃討武人だ。
サチの目には突然自分が指名されて動揺しているように見えた。まだ若いのに可哀想、陵墓に比べて陣地はずっと危険なのだ。
「お主がミズアオイの丘を守る隊長だ。本日中にあと三人の武人を選ぶが良い」
トンボと呼ばれた武人は司令官に拝礼して、元の場所に下がった。
「次に法術師長じゃ。サチ、一歩前へ!」
「え?」
「何をしとる。前に出よ」
ヨツバがサチの尻を押した。
「トンボもサチもまだ若い。まだ修行中の身とも言える。しかしそろそろ陵墓を出て、陣地を守る仕事を覚えてもらおうと思ってのことじゃ。サチ、ここから三人の巫女と二人の呪呪師を選ぶのじゃ」
サチは動揺している。
三人の巫女と二人の呪呪師を選べって?あたしは呪呪師のことは何も知らないよ。
「今すぐには選べません。あとで隊長と相談してもいいですか?」サチはやっとの思いで言った。
司令官はよし、とうなずいた。
「二人とも、夕陽が出る前に出立するのじゃ。励め」
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