9人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の朝、パートの岡田初美が出勤すると、シャッターが上がっていなかったので裏口から入った。すると店の商品棚の手前で倒れているのを発見、すぐに救急車を呼んだが既に死亡しているとのこと、すぐに警察を呼んで、死亡事故調査となった。調査の結果、高齢による突然の心肺停止だとされた。
羽矢の両親は金沢で暮らしている。羽矢は金沢から大阪の短大に進学、昨年卒業後、そのまま市内で就職したのだが、人間関係がうまくいかず半年で退職、以後は派遣の仕事をふたつ抱えながらひとり暮らしをしていた。
進学のために大阪に来たとき、最初はこの家で暮らしていた。しかし一年で祖父から離れてひとり暮らしをするようになっていたのだ。
祖父の家、つまりこのみやげ物店からなぜ出たのか。
祖父はとても優しく、親切な人だった。羽矢も大好きな人だったのだ。しかし肉体的に成長した羽矢にあらぬ欲望を持ってしまった。それが祖父の趣味、パソコンとカメラ、盗撮・盗聴と結びついた。羽矢の部屋、トイレ、脱衣場、浴室。祖父は家のあちこちに小型カメラを設置していたのだ。
脱衣場のそれに初めて気付いたとき、ショックで身体が震えて眠れなかった。
翌日、当時付き合っていた男の子に相談すると、
「どれだけいい人でも性のことは別や。実の孫やからまさか手は出してこんやろけど、覗き見くらいはするんちゃうかな」
「でももう七十過ぎてんのよ」
「男は死ぬまで助平なんだよ」
確かに。
その男の子は個室カラオケで羽矢の友人に抱きついて、それで二人の関係は終わっている。
祖父との話に戻る。あのまま一緒に暮らしていたら、本当に何かされていたかもしれない。羽矢は理由を付けて、祖父の家を出た。祖父は寂しそうにしていたが、それは助平心ではなくて家族の情からなのだと羽矢は思うようにしている。
それでもみやげ物店で暮らしたのは羽矢のいい思い出となっていた。店を経営することに興味を持つきっかけとなった。
だから祖父が亡くなり、店をどうしようという家族会議のときに、後を継いでみやげ物店を経営したいと羽矢が頼んだのだ。
別れた祖母は泉北でひとり暮らししながら仲間と毎日遊び回っていて、今更仕事なんかしたくないと言うし、両親はどうせ派遣なんだから、みやげ店をしたけりゃ構わないよ、みたいなことになり、少しばかりの蓄えも含めて、祖父の遺産を全て相続したのだった。
最初のコメントを投稿しよう!