観光客と違う人

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 羽矢は食堂の椅子に身体を預けて、スマホ、インスタグラムで商品の写真をアップ中だ。そこにパートの谷本陽子がそそくさと入ってきた。 「埴輪作りセットのお客さんよ。説明して欲しいって」と言ってきた。  羽矢は飛び上がって陽子と笑顔を交わした。 「羽矢、逃すなよー」 「頑張るわッ」 羽矢は陽子にエアーパンチをしてから店に向かった。 「いらっしゃいませー」  羽矢はツッカケを履いて店に降りた。  羽矢は若いのか中年なのか、とても疲れた感じの男の人がひとり、キョロキョロと商品棚の周りを探し物でもしてるかのように見回していた。 「ん?どうかしましたか」 「あ、いやなんでもないです。チラッと猫か何か見えたもんだから」 「猫?おもてから入ってきたのかしら」  と羽矢もしゃがんであたりを見回した。 「いや、僕の見間違いだったみたい。さっきから探してるんだけど、いないから」 「そうですか。で、何か」 「あ、そうそう」と信夫は埴輪のキットを指差して、 「あれで埴輪作ってみたいんだけど、素人に出来るのかな」  羽矢は信夫の横に立って商品説明を始めた。  羽矢が使ったであろうシャンプーの匂いが突然、信夫の脳を刺激した。むかし枕営業に来た若い女優の卵を思い出したのだ。あんな出会いでなかったなら、僕はあの子に恋をしていたに違いなかった。この人にはあの子の面影がある。懐かしいな、と信夫は思った。    羽矢を見れば、初めて興味を持ってくれたお客さんに一生懸命に説明している。埴輪作りセットで作れる埴輪のサイズについて。それと宅急便を使った送り返しシステムについて。  羽矢はちらり信夫の顔を見た。理解しているのか、それともただ声を聞いているだけなのかわからないが、黙って聞いているので、最後まで説明を続けた。 「と、だいたいこんな感じですけど、質問とかありますか?」 「いえ、ありがとう。面白そうだからひとつもらいます」 「え、本当ですか?ありがとうございます!」  と言って笑顔になったその顔がとても可愛かったので信夫は、 「あ、あともうひとつ」と羽矢を喜ばせた。 「悪いけど送ってくれない?配送料もここで払うから」と信夫は続けた。 「いいですけど、郵送料って幾らかしら?」 「郵便局って、近くにある?あるなら持っていくから。でも出来たらひとつにまとめてくれると助かるな」  そこに陽子がダンボールの空き箱を持ってやってきた。 「これに入るんじゃないかな」  信夫も含め三人で少しばかり工作して、荷物が出来上がった。 「陽子さん、ここお願い。私、郵便局行ってくる」 「いいですよ、これで充分。自分で持っていきます」と信夫は羽矢を制した。 「じゃあ、郵便局まで一緒に行きましょう」と羽矢は荷物を両手で持ち上げて、外に出てしまった。 「お客さん、郵便局はこっちですよ。行きますよ」  信夫は苦笑いして店を出た。
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