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私の家まで迎えにきてくれた橘さんの運転する車に乗り込む。今日は橘さんのお気に入りのお店に連れて行ってくれるのだという。
どんなお店だろう。彼の好きなお店ってやっぱりイタリアン料理とかフランス料理を出す、お洒落なお店だろうか。それとも、格式高い料亭?
どれにしてもきっとすごいお店だろうな。お上品に食事しなきゃ。私は、車のシートに座り直し、姿勢を正した。
数時間後、久しぶりの赤ワインにかなり酔ってしまった。緊張して出されたお酒をどんどん飲んでしまって……。
覚えてるのは、料理を綺麗に手際よく食べる橘さんの手は筋くれ立った男らしい指が綺麗っていうのとメイン料理のお肉がすごく美味しかったということぐらい。
「大丈夫ですか?」
「はい、すいません。えっと……」
重たい瞼を開くと、目の前には淡いクリーム色の天井。左を見るとベッドサイドテーブルの上のライトが小さな光を灯している。反対側を見ると、橘さんが椅子に座ってこちらを窺っている。私の顔を心配そうに覗き込む橘さんの顔はほんとに……
「カッコいいですね」
橘さんの頬を触り、本当に現実のものかを確かめた。 本物だ、綺麗な顔ってすごいなあ、と考えていると、彼は少し辛そうに眉間を狭める。
「はぁ。やはり酔っていたんですね」
深くため息をつく彼を見て不安になる。何か失礼な事をしてしまったのだろうか。
「心配しましたよ。酔っているだけだとは思いましたが……もし目を覚まさなかったらと」
彼はおそるおそる私の手に触れた。彼の少し冷たい手が私の酔いを醒ましていく気がする。
「ありがとうございます。もうだいぶ良くなりました」
ゆっくり起き上がる私の背中に彼が手を添えてくれる。
彼が椅子から腰を上げ、シーツに手をつく。ゆっくりと彼の顔が近づいてくる。
〝チュッ〟と音を立てて彼のくちびるが優しく私のくちびるに触れる。彼の顔が少し離れて目が合う。間接照明に照らされた彼の瞳は深いレッドブラウンに輝いていた。形のいいくちびるが開き、言葉を紡ぐ。
「好きですよ」
驚いて目を見張る私に微笑みかけて、彼ははシーツから手を離し、立ち上がる。彼の瞳をもっと見ていたい願いは叶わず、彼は離れていく。
ペットボトルを持ってきて蓋を開けて渡してくれる。それを受け取って飲むと、頭がクリアになっていく。
「ここは、ホテルですか?」
「はい、気分が悪そうでしたので近くのホテルに入りました。ベッドに着くと悠衣さんは意識を手放してしまいましたけどね」
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